発表

1A-044

手の軸間で生じる触刺激に対する時間知覚の異方性

[責任発表者] 日髙 聡太:1,2
[連名発表者・登壇者] タメ ルイージ#:3, ロンゴ マシュー#:2
1:立教大学, 2:Birkbeck, University of London, 3:University of Kent

目 的
 触覚において,知覚的な歪みが生じることが報告されている。例えば,手の甲の表面において,長軸(人差し指と手首を結ぶ軸)と短軸(長軸と直交する軸)に沿って2点の触刺激を同時に提示した場合,短軸方向に提示された刺激は長軸よりも,40%ほど空間的な距離が長く知覚される。一方,手の平ではこのような錯覚は生じない (Longo & Haggard, 2011)。この現象は,触覚における知覚感度の違いと体性感覚野の細胞の受容野特性によって説明することができる (Longo & Haggard, 2011)。
 我々の感覚器は常に空間情報と時間情報を含んだ動的な刺激に晒されている。そのため,両者に対する知覚は密接に相互作用する。例えば,2点からなる触覚仮現運動刺激系列が,経時的に2回提示される場面において,両系列とも同一の時間間隔を持つが,一方が他方に比べて移動距離が長かった場合,移動距離が長い系列において時間間隔もより長いと知覚される (Kappa効果; Suto, 1952)。
本研究では,手の表面において,空間的な距離知覚だけではなく,時間知覚についても手の軸間で異方性が生じるかを検討した。Kappa効果が生じることから,空間的な距離知覚が長くなる手の甲の短軸方向において,時間知覚も長くなると予測した。手の平では,空間的な異方性が生じないため,時間知覚についても手の軸の影響は見られないと予測した。
方 法
実験参加者と装置:実験目的を知らない15名が実験に参加した。触覚刺激装置,キーパッド,ヘッドホンを用いた。
刺激と手続き:参加者は目隠しをした状態で着席し,両手を机の上に置いた。参加者の耳にヘッドホンからホワイトノイズを提示し,触覚刺激のノイズが聞こえないようにした。参加者の左手の表面に4つの振動子を設置した。2つを長軸方向,別の2つを短軸方向に設置した。各軸で振動子間の距離は3.5 cmであった。各振動子から振動を95 ms提示した。各軸で,異なる位置にある振動子から振動を1回ずつ,一定の刺激間時間間隔(ISI)で提示した。各軸の時間系列を1回ずつ,ランダムな順序で1000 msの間隔をおいて提示した。参加者は,2つの時間系列のうち,どちらの時間間隔(最初あるいは2番目)がより長く感じたかをキー押しで報告した。
参加者の主観的等価点(PSE)を2つのQUEST系列 (Watson & Pelli, 1983) を用いて測定した(30試行)。1つの系列では手の長軸を,もう1つの系列では短軸のISIを300 msの標準刺激として設定し,他方の軸のISIを参加者の応答に応じて調整した。これを4セッション繰り返した(計240試行)。実験1では手の甲を,実験2では手の平を刺激部位とした。
各参加者毎に,各軸において4つのPSEを平均し,軸間でPSEの差分値を計算し,ブートストラップ法(10^4回の繰り返し)(Efron & Tibshirani, 1993)を用いて統計的検定を行った。
結 果
 手の甲に刺激を提示した実験1では,短軸方向で長軸方向よりもPSEが長くなった(173.48 ms, 95%CI = [0.28 0.06], t = 3.01, p = .03, d = 3.07)(図1)。一方,手の平に刺激を提示した実験では,そのような差は見られなかった(-50.53 ms, 95%CI = [0.01, -0.11], t = -1.65, p = .14, d = -1.72)(図1)。
考 察
本研究では,手の表面に提示された触覚時間系列において,手の軸によって時間知覚に異方性が見られるかどうか検討した。実験1の結果から,空間的な長さ知覚において異方性が報告されている (Longo & Haggard, 2011) 手の甲においては,同様に時間知覚においても,手の短軸方向において時間知覚が長くなるという異方性が示された。一方,実験2では,空間的な長さ知覚の知見と一致して,手の平においてはこのような異方性が生じないことが分かった。したがって,実験1の結果は注意や反応のバイアスに基づくものではないといえる。本研究の結果から,物理的な長さと同様に (Suto, 1952),手の甲における手軸間の空間的な距離に対する知覚的な異方性が,時間知覚へと転移することが示された。
引用文献
Efron, B., & Tibshirani, R. J. (1993). An introduction to The Bootstrap. New York: Chapman and Hall.
Longo, M. R., & Haggard, P. (2011). Weber’s illusion and body shape: Anisotropy of tactile size perception on the hand. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 37(3), 720–726.
Suto, Y. (1952). The effect of space on time estimation (S-effect) in tactual space. I. Japanese Journal of Psychology, 22, 45–57.
Watson, A. B., & Pelli, D. G. (1983). Quest: A Bayesian adaptive psychometric method. Perception & Psychophysics. 33(2), 113–120.

キーワード
触覚/時間知覚/知覚的異方性


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