発表

3B-038

定位反応の指標としての精神性発汗
―換気カプセル式デジタル発汗計を用いた検討―

[責任発表者] 今井 章:1
[連名発表者・登壇者] 新堂 光太郎#:1, 大橋 俊夫#:1
1:信州大学

目 的
 生体が新奇性(novelty)や有意性(significance)を持った刺激の提示に対して,初期に示す反応は,定位反応(OR)と呼ばれている。従来のOR研究では,その指標として皮膚電気反応(EDR)や脈波,あるいは心拍減速化が取得されて調べられてきている。中でもEDRは,刺激の反復提示により顕著な反応の馴化(habituation)と,その後の刺激変化に対する鋭敏な反応の回復(脱馴化)を示すことから,ORの特徴をよく備えた指標として主に用いられてきた。このEDRは,精神性発汗部位に電極を置いて計測され,その生理的基礎としては,エクリン汗腺の活動による電気現象が皮膚の状態などと関連して出現するといわれており,発汗と密接に関係する現象と考えられているが,発汗量を直接,定量的に測定してORを検討した研究はほとんどない。
 一方,大橋の研究グループ(百瀬・坂口・大橋, 2010)は,流量補償方式を採用した換気カプセル式の発汗計を開発し,皮膚表面より非侵襲的に定量的かつ高精度で発汗量の測定を可能にした。本研究では,この装置を用いて発汗反応(sweating response; SR)を定量的に測定し,ORの指標としての精神性発汗について検討することを目的とした。
方 法
 実験参加者 大学生18名(年齢18―22歳,女子11名)を後述の実験群と統制群に無作為に9名ずつ配置した。
 測定装置 ORの指標としてSRを測定した。発汗量は,参加者の左親指掌面末節骨部に直径18 mm,厚さ11 mm,接着面に直径11 mm,深さ2 mmの換気室のある円形測定用カプセルを貼り付け,デジタル発汗計(スキノス製 SKN-2000)によりサンプリングレート10 Hzでデジタル化し,PC(SONY VGN-TT91JS)に収録した。
 刺激 聴覚刺激を用いた馴化-脱馴化パラダイムを用いた。刺激音はPC(Apple MacBook Pro MD213)からPsychoPyでスケジュール化し,スピーカー(SONY PCVA-SP2)より提示された純音であった。純音は2種類(1,000 Hz, 43.0 dB; 1,500 Hz, 63.5 dB; 持続時間200 ms)を用意し,1,000 Hz音を馴化刺激,1,500 Hz音を脱馴化刺激とした。
 手続 実験参加者を無作為に実験群,または統制群に配置した。馴化-脱馴化パラダイムにより両群とも,まず馴化刺激として1,000 Hz音が10試行,反復提示された(馴化試行)。その後,第11試行目に,実験群には脱馴化刺激として1,500 Hz音が,統制群には馴化刺激の1,000 Hz音が提示された(テスト試行)。音刺激は,刺激間間隔を16―24 sの間で5通りにランダムに変動(平均20 s)させて,持続時間200 msで提示した。
結 果
 各刺激提示後,1―5 s以内に出現した発汗量の変化について,刺激誘発性のSRと定義した。このSRについて,反応出現直前の発汗量をベース発汗量,反応の最大変化が示された時点をピーク発汗量として同定した。その後,ピーク発汗量からベース発汗量の差分値を各試行毎に算出して分析した。
 Figure 1には,馴化試行(2試行ブロック)とテスト試行におけるSRの変動が示されている。図に見られるように,SRは第1ブロックにおいて顕著に出現しており,この反応が,刺激の反復提示に伴い徐々に減衰していく様子が認められる。SRについて,繰り返し要因を含む群×ブロックの分散分析を行ったところ,ブロックの主効果に有意傾向(F(1,16)=3.55, p= .066)が示されたが,群,あるいは群とブロックの交互作用は有意とはならなかった。
 さらに,テスト試行におけるSRの群間差について一要因分散分析を行ったが,有意な結果は得られなかった。
考 察
 本研究では,これまでORの指標として主に取得されてきたEDRに代わり,精神性発汗現象を直接的に捉えることができるSRを測定し,その指標としての可能性を検討しようとした。馴化試行においては両群間で差が認められず,ブロックの主効果のみが有意傾向となり,刺激の反復提示に伴う反応の減少傾向が示されたといえる。このことは,ORの特徴の一つである刺激の反復提示に伴い反応が馴化する傾向と一致するといえる。
 しかし,第11試行に導入した脱馴化刺激に対しては,実験群の脱馴化としての反応回復が僅かながら認められそうであったが,この回復は統制群との比較において有意とはならなかった。したがって,刺激変化に対して鋭敏な脱馴化を示すという,もう一つのORの特徴と一致する結果は今回,得られなかった。
 以上のように,ORの指標としてのSRについて検討を行ったが,刺激の反復提示に伴う馴化の傾向は示されたものの,刺激変化に対する脱馴化は明確ではなかった。しかし,SRについてのデータが不足していることから,今後も引き続き検討する必要があろう。
引用文献
百瀬秀哉・坂口正雄・大橋俊夫 (2010). 1チャンネル流量補
 償方式携帯型発汗計の開発 発汗学, 17, 21-23.

キーワード
定位反応/精神性発汗/デジタル発汗計


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