発表

2D-037

隠匿情報検査時の弁別ルールの適用可能性

[責任発表者] 小川 時洋:1
[連名発表者・登壇者] 常岡 充子:1, 野村 奈都:1
1:科学警察研究所

目 的
 隠匿情報検査(CIT)は,現在の我が国の警察で利用されているポリグラフ検査のパラダイムである(Lykken 1959; 小川他, 2013; Osugi, 2018)。CITでは,事件事実と一致する内容を示す関連項目と,それと類似するが事件事実とは一致しない複数の無関連項目を組み合わせた多項目形式の質問(質問表)を用意する。各項目を提示しながら,皮膚伝導度(SC),呼吸運動,心拍数(HR),規準化脈波容積(NPV)などの生理活動を測定する。質問表に含まれる事件関連項目を特定できる検査対象者は,関連項目提示時に非関連項目提示時よりも大きな皮膚電気活動,浅くてゆっくりとした呼吸運動,低い値のHRとNPVを示す傾向がある。
 CITで見られるこのような弁別的応答には,質問の意図や内容に関する検査対象者の理解が大きな影響を及ぼすことが示唆されている(Ambach et al., 2011など)。本研究では,質問表に含まれる項目を,関連・非関連項目に分けるルール・基準の適用可能性が,弁別的応答に及ぼす影響を検討した。実験では,参加者は形態と色・文字種を組み合わせた2種類の刺激(e.g.,赤色の三角形,橙色のM)を参加者に記銘した後,CITを受けた。CITの質問表には,記銘した刺激と完全に同一の刺激は含まれず,色もしくは形態のどちらか一方が一致する項目のみで構成された。CITは,記銘した刺激の色について尋ねる条件(適用可能ルール条件)もしくは,覚えた刺激が何かを尋ねる条件(適用不可能ルール条件)で2回実施した。適用不可能ルール条件では,覚えた刺激と部分的に一致する刺激に対して弁別的反応が見られる可能性と,弁別的反応が見られない可能性の両方が考えられる。

方 法
 参加者 成人33名(男性16名,女性17名,平均年齢32.4±4.9歳)が実験に参加した。
 質問刺激 各5種類の色が全て異なる図形(三角形・四角形・五角形・星形・十字型)およびアルファベット(Q・M・T・X・Z)を用いた。この他に,各セットの最初に提示される緩衝項目を2種類用意した。
 装置 デジタルポリグラフ装置(PTH-347Mk3)を用いて,SC,呼吸運動,HR,NPVを測定した。
 手続き 実験は,参加者ごとに個別に行った。参加者は,各CITに先立ち,図形またはアルファベットが印刷されたカードを1枚選んで記憶した。CITの質問表は,図形またはアルファベットを尋ねる2種類があった。質問表には,参加者が覚えた刺激と同じ色または同じ形態・文字種の項目は含まれていたが,同一の項目はなかった。教示として,適用可能条件では,質問表の中に参加者が選んだ刺激の色を調べることが目的であることを伝えた。一方,適用不可能条件では,検査の目的は,参加者が選んだ刺激が何かを調べることであると伝えた。条件の実施順序・質問表の種類は参加者間で変えた。各質問は緩衝項目を含めて各6項目で構成され,項目の提示順序を変えながら,各5セット繰り返した。項目は,PCを用いて画像(5s提示)および音声刺激(“これですか?”)として25s間隔で一つずつ提示した。参加者は,全ての質問に“いいえ”と口頭で返答した。
 分析 本稿ではSC,呼吸運動(胸部),HRについて報告する。SCは,刺激提示後5s以内に生じた変化の最大値を皮膚伝導度反応(SCR)として計測した。呼吸運動は,刺激提示後10s間の呼吸曲線長を分析時間で除した呼吸速度として求めた。HRは,刺激提示後6sから提示後16sまでの平均値を分析対象とした。これらの値は,質問表内で標準化した後,条件ごとに色一致項目・形態一致項目の平均を求めた。

結 果
 手続きや計測上の問題から2名のデータを分析から除外した。条件(適用可能ルール・適用不可能ルール)×項目(色一致・形態一致)のいずれも個人内要因とする2要因の分散分析を行った結果,交互作用がSCRで有意傾向(p = .078),呼吸速度とHRで有意(ps < .004)であった。下位検定の結果,適用可能ルール条件では色一致項目に対して,形態一致項目よりも大きなSCRと,低い呼吸速度およびHRが見られた。適用不可能ルール条件では,項目間の差異が見られた測度はなかった。また,これらの項目に対する弁別的応答の生起を,1標本のt検定を用いて検討した。適用可能ルール条件では,色一致項目に対するSCRは有意に0よりも大きく,呼吸速度とHRは低かったほか(ps < .005),形態一致項目に対してはHRが0よりも有意に大きく(p < .001),呼吸速度も有意に大きい傾向が見られた(p = .079)。一方,適用不可能ルール条件では,何れの測度・項目も0と有意に異ならなかった(ps > .337)。

考 察
 実験の結果,質問表の項目をカテゴライズする基準・ルールの適用可能性が,CIT時の生理反応の弁別的応答を規定することが示された。本研究で用いた質問表には,参加者が実際に記憶した刺激と,完全に一致する項目は含まれていなかった。しかし,教示によって刺激のある側面(色)に焦点づけを行った場合は,色一致項目に対して先行研究と同様の生理反応の違いが観察された。一方,記銘した刺激と同一の項目がないために,項目を関連・非関連項目に分けられない適用不可能ルール条件では,色一致項目と形態一致項目のいずれか,あるいは両方に対して他と異なる反応が生じる可能性も考えられたが,実際には生理反応の違いは観察されなかった。ただし,これはあくまで全体の傾向であり,個々の参加者のこれらの項目に対する反応傾向についても詳細に検討する必要がある。

キーワード
隠匿情報検査/弁別的反応/課題ルール


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