発表

1D-038

自伝的記憶想起による指尖脈波のカオス的変動についての研究

[責任発表者] 柴山 笑凜:1
[連名発表者・登壇者] 鈴木 平:1
1:桜美林大学

【目的】
 超高齢化社会への突入を目前として,高齢者の抱える問題の一つに認知症があげられる。認知症の予防的介入としてしばしば用いられるのが回想法である。本研究では,回想法などの自伝的な記憶を想起することによる効果を実証的に研究するため,生理データを用いて検討していく。解析には,生体信号の新たな解析手法としての指尖脈波のカオス解析を用いた。カオス解析とは,対象となる現象のゆらぎを非線形解析を用いて定量化するものであり,そのゆらぎの指標の一つにLargest Lyapnov Exponent(LLE)がある。環境に対して適応的な状態であることや,心身の健康が保たれていると,LLEが高くなることが多くの先行研究から明らかとなっている。本研究では,大学生を対象に回想法的介入を行う前後で,指尖脈波のカオスの変化を測定し,回想法の機能について検討することを目的とする。その際,発話による血流への影響を考慮し,単純な発声を行う統制群を比較対象として設けることとする。心理指標についても測定を実施し,回想法による心理的変化も検討する。回想法はロバート・バトラーが提唱した心理療法であり,過去のなつかしい思い出を語り合ったり,話したりすることで脳が刺激され,認知機能が改善することが期待されているため,本研究では実証的な研究を行うことにした。
【方法】
 対象者:機縁法によって集めた18人の実験協力者のうち,データ欠損があった2名を除く16人でデータ分析を行った。女性10名の平均年齢は21.10(SD=0.99)歳,男性6名の平均年齢は21.83(SD=1.72)歳であった。
 材料:Lyspect3.5((株)カオテック社製)に脈波測定用のカフセンサーを接続し,ノートPC((株)NEC社製,Versa Pro VD-9)にアナログデータを取り込み,AD変換を行った。心理指標としてPOMS2日本語版成人用短縮版(横山,2017)と,チェックシートを用意した。このチェックシートは “幼少期楽しかった”“幼少期の楽しい思い出がすぐに出る”“幼少期の嫌な思い出がすぐに出る”“今回の実験でうまく話すことができた”“実験者は話を聞いてくれたと思う”“話しやすかった”“話していて楽しかった”という質問内容を1~10段階で回答してもらうものであった。統制群用に日本語50音を全て表記した紙を用意した。
 手続き:まずPOMSへの回答を行わせ,回答終了後,安静時の脈波を3分間測定した。次に,統制群(50音発声)では紙に記された50音を声に出して3分間繰り返しで読んでもらい,その最中に脈波を計測した。実験群(自伝的記憶想起)では,幼少期に一番楽しかった思い出について語ってもらい,話している最中に脈波を計測した。最後に3分間のLLEを測定し,終了後POMSにもう一度回答させた。実験群のみ,POMS回答終了後,作成したチェックシートに回答させた(今回は分析の対象外とした)。
【結果と考察】
 Figure1は両群のLLEの変化に関する2×3の分散分析の結果である。回想preからmidstのLLEの増加,そしてその後のpostでもLLEがpreよりも高く保たれたことから,回想法による自伝的記憶想起により脳が刺激され,精神的健康が保たれたと推測される。さらに,50音発声の前後や最中にLLEの差が見られないことから,自伝的記憶を想起し,語るということは,単純な発声とは違い,回想法には中枢神経系の活性化や,精神生理学的にポジティブな効果があったと考えられる。
 Figure2は実験前後でのPOMSでの抑うつ・落ち込みの得点の差をグラフで示したものである。混乱・当惑,疲労・無気力,緊張・不安でも同傾向が見られた。このことから回想法の介入により,ネガティヴな項目について得点が低下する,つまり精神的健康が保たれるということが示唆された。
 今後は,回想法の意味や機能をより詳細に研究していくために,自らの過去語りでなく,何か情動を喚起しない話題について話した時のLLEのカオス的変動の比較や,実際の認知症患者に対して実証的な研究が行われることが望まれる。
【引用文献】
 雄山真弓(2012).心の免疫力を高める「ゆらぎ」の心理学 祥伝社

キーワード
回想法/指尖脈波/カオス


詳細検索