発表

1B-040

ビデオクリップに対する強い快情動と生理的活動の関連性

[責任発表者] 中山 誠:1
1:関西国際大学

 はじめに
 中山(2017)は,アクション映画の格闘シーンで,実験参加者が興味と緊張感をもって画面に見入っているとSCLの上昇とHRの減速が起き,ドラマで主人公が言葉でいじめを受ける場面ではHRが加速し,呼吸が早くなることを明らかにした。また,風景の動画については,実験参加者がリラックスし,呼吸時間が長くなることを報告している。ところで,近年では,呈示された音楽に対して“涙ぐむ”もしくは“背筋がぞくぞくする”といった,より強烈な情動体験(感動)について生理反応を指標とする実験的研究が盛んにおこなわれている。森と岩永(2014)によれば,このような現象は,「鳥肌感」といわれ,快および喜びといったポジティブな情動ばかりではなく,どちらかといえばネガティブな悲しみの情動によっても喚起されることが確かめられている。また,音楽の楽譜上で鳥肌感を生起しやすいのは,音が大きくなる箇所,高いもしくは低い音が現れる箇所,予測しづらい進行のあった箇所であることが指摘されている。そして,音楽聴取後の質問紙によると,鳥肌感がより多く生起するのは,聴取に没頭し,集中している度合いが高かった時点であるとされている。また,生理反応との関係については,鳥肌感の生起時には高い皮膚コンダクタンス水準が認められるものの,呼吸運動や心拍率には一貫した結果が得られていないとされている。本研究では,これまで,音楽を刺激として研究されてきた鳥肌感について,比較的短い,ビデオクリップに対する生理反応を用いて検討をおこなった。
 方 法
 実験参加者:実験参加者は健康な男女学生37名(男性12名,女性25名,年齢幅は18-22歳,平均年齢は20.2歳)であった。測定した生理指標:皮膚コンダクタンス水準,心拍率,呼吸曲線長
 呈示刺激:所要時間は以下に示す①,②が9分前後,③が6分程度であった。①はじめてのおつかい(2018年8月放送 3歳の幼児が父親の職場に届け物をしたあと,時計店に立ち寄るおつかいを託されるが,帰り道で忘れてしまい,そのまま,帰宅。その後,幼児が自ら奮起して再度,挑戦し,使命を果たすもの)。②大正銀行CM 「ずっと変わらない」(インターネット上で公開されたCM。母親と思春期を迎えた高校入学前の娘が携帯電話の契約をめぐってすれ違い状態になるものの,電話料金を自ら支払う決意して,口座開設のために訪れた銀行で,支店長から幼少期のことを聞かされて涙ぐみ,最後は就職が決まり,初出勤を前に,母親に「おおきに」と伝える)。③風景(「おだやかな秋の日の午後 ~落合川駅周辺の風景~」)。なお,実験中はビデオカメラにより,実験参加者の表情や動作が生理反応と同時記録された(ニホンサンテク製インプットモニター)。
 主観的評定:ビデオの呈示終了時には,POMSおよび「語彙間の主観的な類似度により感動語の分類」(大出・今井・安藤・谷口,2007)から抜粋した計16項目で評定をおこなわせた。また,ビデオ鑑賞中に実験参加者の感動の度合いをリアルタイムで測定するため,ビジュアルアナログスケールユニット(ニホンサンテク製:MaP2726VAS)(Pic.1)を使用し,「感動していない」から,「とても感動した」までの5段階を,レバーを操作させ,評定させた。
 結 果
 刺激呈示終了後の質問紙では,「心が温まる」「胸を打つ」の2項目に関しては,「お使い」「CM」とも相対的に得点が高く,ビデオクリップ間には有意な差はなかった。そして,「お使い」に比べて「CM」の方が有意に高かった項目は「心にしみる」,「心をわしづかみにする」の2項目で(ともに,p<.05),「お使い」が「CM」をうわまわったのは「達成感がある」(p<.001),「活気がある」(p<.05),「興奮した」(p<.01)の3項目であった。
 次に,3種類のビデオクリップに対する平均SCLの結果がFig.1.に示された。一元配置の分散分析の結果,主効果が有意で(F(2/70)=10.1,p<.001,偏η²=0.224),多重比較をおこなったところ,「CM」と「おつかい」(p<.05),「CM」と「風景」(p<.05)との差が有意であり,「おつかい」と「風景」との差は有意ではなかった。また,ビデオクリップ鑑賞中の心拍率と呼吸曲線長に関しては顕著な違いが認められなかった。
 「おつかい」に関しては,全般に周囲の大人達の優しい目に守られながら進行し,最初は忘れていた役割を最後に果たすことで課題の「達成感」から生じる情動は認められるものの,「風景」のビデオクリップとの間でSCLの差が認められなかった。一方,「CM」に関しては親子関係の破綻の危機を迎えながら,最後はより緊密な結びつきを確認することで実験参加者が「心をわしづかみにする」と評価したためか,他の刺激に比べて有意に高いSCLが得られたと考えられた。しかしながら,2種類の刺激とも,「背筋がゾクゾクする」の項目に対する得点が低く,また,「予期しない,意外な展開」の場面が含まれていなかったことから,今後,新たな動画を選んでさらに検討する必要がある。

キーワード
鳥肌感/皮膚コンダクタンス水準/情動


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