発表

1B-039

隠匿情報検査における弁別反応の個人内一貫性:階層ベイズモデリングによる分析

[責任発表者] 渋谷 友祐:1
1:鳥取県警察本部刑事部科学捜査研究所

【目的】
 隠匿情報検査は,皮膚コンダクタンス反応や心拍率などの自律神経系の生理反応の変化から,被検査者が特定の犯罪事実を認識しているか否かを判断する記憶検査の一種であり,日本の警察実務において実際に犯罪捜査に利用されている。例として,ある絞殺事件の凶器についての認識の有無を判断する場合,「犯行に使われた凶器はネクタイ?ベルト?ロープ?ビニールひも?電気コード?」などと複数の質問項目で作成された質問表から各項目を1つずつ提示しながらその際の被検査者の生理反応を測定する。1つの質問表の提示は質問項目の順番を変えながら複数回行われる(質問表を1回提示することを1セットという)。生理反応の測定の結果,実際の犯罪事実を示す項目(関連項目)とそれ以外の項目(非関連項目)との間で生理反応に違いがあれば被検査者は当該犯罪事実を認識していると判断する。ただし,現実には犯罪事実に認識を有するすべての被検査者がすべての生理指標のすべてのセットで関連項目に対して非関連質問と異なる生理反応を示すわけではない。各生理指標における個人内での弁別反応の一貫性について検討することは今後の検査実務に有用な知見をもたらすであろう。そこで本研究では,隠匿情報検査で主に用いられる生理指標である皮膚コンダクタンス反応,規準化脈波容積,心拍率,呼吸率に関して,このような弁別反応の個人内での一貫性について検討した。
【方法】
 本研究では,小川・松田・常岡(2013)の実験データを階層ベイズモデルによって再分析した。
分析データ 小川他(2013)では,実験参加者は模擬窃盗課題の後に窃取品に関する5つの質問項目からなる質問表を用いた隠匿情報検査を受けた(86名は記銘群として事前に模擬窃盗を実行し,81名は模擬窃盗を行わずに非記銘群として実験に参加した)。
モデル 本研究で構築した図1のモデルにおいて,yは実際に測定された生理反応,αは関連・非関連項目に共通の刺激呈示に対する反応量,βは弁別による生理反応の変化分を示しており,関連項目に対して確率λで弁別反応が生じると仮定している。また,弁別反応の一貫性を示すλに関する3つのモデルを考え,WAICの比較によって最適なモデルを選択した。なお,モデル1はλが記銘群と非記銘群のそれぞれで単一のベータ分布に従うモデル,モデル2は実験参加者が弁別反応が一貫して生じる参加者とほとんど生じない参加者に二分されると仮定した上でその混合比が群によって異なるモデル,モデル3は弁別反応の一貫性についてモデル2の2種類の参加者の中間を加えたモデルである。
【結果と考察】
 ハミルトニアン・モンテカルロ法によるパラメータ推定の結果,モデル2ではいくつかのパラメータが事後分布に収束しなかったためモデル比較からは除外した。モデル1とモデル3のWAICを比較すると,わずかではあるがいずれの生理指標でもモデル1の方が小さな値を示した。したがって,隠匿情報検査の被検査者は,弁別反応の一貫性に関して「一貫して弁別反応が生じる」「ほとんど弁別反応が生じない」というような群に明確に分かれると考えるより,ある程度の連続性を持って分布していると考えた方が妥当であろう。また,各生理指標の個人内一貫性を示すλの平均値であるパラメータωの事後期待値(記銘群/非記銘群)は,皮膚コンダクタンス反応で .713 / .032,規準化脈波容積で .848 / .115,心拍率で .956 / .039,呼吸率で .709 / .090であった。 この結果から,記銘群において弁別反応の一貫性の期待値が非常に高く,非記銘群において低かった心拍率は隠匿情報検査において特に有効な指標であることが分かる。さらに,ωとτの事後分布から生成したλの予測分布は,記銘群では左裾が重く,非記銘群では右裾が重い形状であった。λの予測分布からは,いずれの生理指標においても犯罪事実に認識がないにもかかわらず被検査者が一貫して弁別反応を示す可能性はほとんどなく,隠匿情報検査で偽陽性が生じる可能性が非常に低いことが示された。
【文献】
小川時洋・松田いづみ・常岡充子(2013).隠匿情報検査の妥当性:記憶検出技法としての正確性の実験的検証 日本法科学技術学会誌,18,35-44.

キーワード
隠匿情報検査/階層ベイズモデリング


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