発表

1A-042

自己関連性が秘匿情報検査における脳血流動態反応に与える影響
近赤外分光法を用いた検討

[責任発表者] 長田 泰平:1
[連名発表者・登壇者] 高橋 敏治#:2
1:富山県警察本部刑事部科学捜査研究所, 2:法政大学

 問 題 と 目 的
 秘匿情報検査(Concealed Information Test:以下CIT)は我が国の犯罪捜査におけるポリグラフ検査で用いられる質問手法である。当該犯罪に関連のある関連項目と,関連項目と同一のカテゴリだが当該犯罪とは関連しない非関連項目を呈示して,項目間の生理反応差を比較する方法である。
 近年,fMRI, PETなどの脳機能計測法を指標とした虚偽検出研究がなされている。近赤外分光法(Near Infra-red Spectroscopy:以下NIRS)は,時間分解能が備わっていることやランニングコストが比較的安価である点が,実務応用に適性を持つとされる。
 本研究では犯罪実行の有無が,CITで確認される項目間の生理反応差に与える影響を検討した。記銘課題として模擬犯罪を実行すると,カードテストを行った場合と比較して,反応差が顕著になることが報告されている。こうした知見から,CITは単なる記憶の検査ではないと推測することができる。本研究では模擬犯罪の実行によって,被検査者の当該犯罪に対する自己関連の程度が増加するという仮説の下で検討を行った。NIRSを用いて脳血流動態反応を指標とし,中枢神経系指標に基づいた解釈を行うとともに,NIRSを用いた虚偽検出の可能性についても検討した。
 方 法
 本実験は法政大学文学部心理学科・心理学専攻倫理委員会の承認を受けて行われた(承認番号:17-0043)。
 実験デザイン 2(群:犯罪実行群・情報既知群) ×2(項目:関連項目・非関連項目) の2要因混合計画であった。
実験参加者 30名(男性16名,女性14名,M=22.63歳,SD=2.87)であった。
 使用装置 計測機器はETG-4000(日立メディコ,日本)であった。プローブは3×11ホルダー(52ch)を使用した。前頭葉及び側頭葉をROIとしてプローブを装着した。サンプリングレートは10Hzであった。
 手続き 実験参加者はランダムに2群に割り振られた後,記銘課題を行った。犯罪実行群は別室のロッカー内の金庫を開錠して,保管されているカードを窃取するといった模擬窃盗を実行した。犯罪情報既知群は上記窃盗事件の資料の黙読を行った。文章は実験参加者の事件に対する関与の有無は仄めかさない形式で記載された。
 記銘課題終了後は機器を装着しカード,キーホルダーの色,ロッカー番号を質問表としてCITを実施した。質問表は関連項目1問と,非関連項目4問で作成された。検査開始に先立ち,全ての質問表を実験参加者に見本として呈示した。刺激はモニター上に視覚呈示された。注視点の呈示時間は5 sであり,その後質問文と画像が15 s呈示された。15s経過時点で選択肢が呈示され口頭及びボタンの押下により回答した。項目はランダムで呈示され,各質問表は3回ずつ呈示された。
 前処理 解析対象は酸素化ヘモグロビン濃度変化量とした。解析区間は画像呈示直前5 sをベースラインとした場合の,質問呈示後の15 sであった。算出された平均波形におけるピーク値を抽出した。個人間の比較を行うため,カテゴリにおける5項目の最大反応値の内,最も高い値によって,すべての項目の値の比を算出した。
 結 果 と 考 察
 項目の主効果及び群と項目の交互作用が確認された(F(1,28)=15.06,p<.001,η2=.10,ω2=.06)。単純主効果検定の結果によると,犯罪実行群においてのみ, 関連項目に対する反応が非関連項目と比較して有意に高いということが確認された。一方,情報既知群において項目間に差は確認されなかった。
 Peth et al.(2015)と同様に,模擬犯罪の実行によって関連/非関連項目間の生理反応差が生じていることが確認された。本研究によりCITの解釈可能性が拡大したと考えた。
 カードテストやシナリオ課題を用いた研究では確認されていた項目間の生理反応差が,情報既知群において確認されなかった理由の一つとして,記銘方法の影響が考えられる。自己の体験として得た記憶とそうでない記憶の差による影響が考察された。
 項目間の反応差が項目に関する記憶の有無ではなく,犯罪の実行の有無によって定義することができれば,CITパラダイムの解釈可能性が増すと同時に,一部の報道済みの事件についても検査実施が可能となるかもしれない。ただし,この点はCITの批判として挙げられる測定対象の曖昧性を助長する危険性も孕んでいる。
 今後の展望として,さらに記銘手続を精緻化することにより,自己関連の影響を確認していくことが必要である。またNIRSによる虚偽検出における,より標準化された個人識別に向けた判定法の探索が望まれる。
 引 用 文 献
 Peth, J., Somm er, T., Hebart, M. N., Vossel, G., Büchel, C., & Gamer, M. (2015). Memory detection using fMRI: Does the encoding context matter?. NeuroImage, 113, 164-174. 

キーワード
秘匿情報検査/自己関連性/近赤外分光法


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