発表

1A-040

表情模倣による情動伝染の生起過程についての検討

[責任発表者] 山下 裕子:1
[連名発表者・登壇者] 境 泉洋:2, 佐竹 昌之#:1, 佐藤 裕#:1, 山本 哲也:1
1:徳島大学, 2:宮崎大学

目 的
 情動伝染とは,個人の感情状態が他者から表出された感情と一致する現象のことであり,先行研究において,他者の感情的な表情を見ることで,情動伝染が生じることが証明されている(e.g., Hess & Blairy, 2001)。
 この情動伝染の生起過程には,表情模倣が大きく関係すると考えられているが,これら2つの現象の直接的な関係性については,いまだ研究知見の不一致が見られているのが現状である(e.g., 田村・亀田,2006)。
 こうした不一致の背景要因の一つとして,表情刺激の提示方法による参加者の感情状態への影響が挙げられる。これまでの情動伝染の研究では,1人の実験参加者に複数の種類の感情表情を提示し,各表情の提示後にその時の感情状態を評価するという方法が主であった(e.g., Hess & Blairy, 2001)。しかし,こうした方法では,ある感情表情を提示されたことにより生じた感情状態が,その後に提示された他の感情表情における感情評価に影響を及ぼす可能性や参加者が研究の意図に気付く可能性が考えられる。
 そこで本研究では,1人の参加者に対して一つの感情表情を提示することによって,表情提示前後の参加者の感情状態を尋ねた。加えて,顕在的・潜在的な筋反応の測定が可能である表情筋筋電図(fEMG)を用いて表情筋反応を測定し,表情模倣による情動伝染の生起過程について検討を行った。
方 法
 実験参加者 インフォームド・コンセントが得られた47名(男性6名,女性41名:平均年齢19.89±1.15歳)を,喜び表情提示群と悲しみ表情提示群に分類した。
 fEMG 電極は,参加者の顔の左側の大頬骨筋と皺眉筋に貼付した。本研究では,表情提示後1秒間の積分化された筋活動を表情刺激に対する反応として抽出し,分析を行った。感情表情刺激提示時とニュートラル表情刺激提示時の平均筋反応の差分を感情表情刺激による誘発成分とした。
 表情刺激 ATR顔表情データベースDB99の10名の喜び,悲しみ,ニュートラル表情を用いた(男性6名,女性4名)。
 質問紙 気分調査票(坂野ら,1994)の「爽快感」,「抑うつ感」の2因子をそれぞれ喜び感情と悲しみ感情の情動伝染の指標とした。
 手続き fEMGを用いて表情刺激提示中の実験参加者の表情筋反応を測定した。また,各群にはそれぞれの感情表情のスライドの他にニュートラル表情のスライドが提示された。なお,各感情における表情刺激の提示時間は1.5秒間であり,30回提示された。表情刺激間の注視点は1.5秒間提示された。そして,気分調査票を用いて表情提示前後の感情状態について尋ね,その変化量を用いて情動伝染の生起について検討した。なお,本研究は,徳島大学大学院社会産業理工学研究部社会総合科学域研究倫理審査委員会の承認を得て実施された(受付番号162)。
結 果
 表情模倣について,各群の表情筋反応に対して0と有意に異なるかどうかのt検定を行った結果,喜び表情提示時には大頬骨筋の有意な活性化が見られ(t(22)=3.30,p=.003),悲しみ表情提示時には皺眉筋の有意な活性化が見られた(t(23)=2.26,p=.034)。
 また,情動伝染について,喜び感情得点変化量は喜び表情提示群の方が悲しみ表情提示群よりも有意に大きく(t(45)=3.00, p=.004),悲しみ感情得点変化量は悲しみ表情提示群の方が喜び表情提示群よりも有意に大きかった(t(45)=-2.69, p=.010)。
 そして,各群において表情筋の活動量と感情得点変化量について相関分析を行った結果,大頬骨筋活動量と喜び感情得点変化量に有意な相関は見られなかったが(r=.09, p=.70),皺眉筋活動量と悲しみ感情得点変化量に有意な正の相関が見られた(r=.46, p=.025;Figure 1)。
考 察
 本研究の結果,各表情に適合する表情筋反応や感情得点の変化が認められ,表情模倣および情動伝染が生じていることが確認された。
 次に,喜び表情においては表情模倣と喜び感情得点変化量に関係は見られなかったが,悲しみ表情においては表情模倣と悲しみ感情得点変化量に関係が見られた。このことから,情動伝染の生起過程が表情によって異なることや,活動する表情筋によって感情状態に与える影響が異なる可能性が示された。
 皺眉筋が作り出す表情(悲しみ,恐怖など)は,特に重要な生物学的・社会的機能を有するものであるため,我々は生物の生存に関わる皺眉筋の反応に特に敏感であるのかもしれない。その結果,皺眉筋の反応に伴って感情状態の変化が生じたと考えられる。
 一方で,本研究では,表情模倣と情動伝染の現象間の生起順序を示すことが困難であるため,今後はこれらの現象間の時系列情報を検討し,表情模倣が情動伝染を引き起こすというメカニズムを実証する必要があると考えられる。

キーワード
表情模倣/情動伝染/fEMG


詳細検索