発表

1B-037

少年院支援教育課程における集団認知トレーニングの効果

[責任発表者] 中村 有里:1
[連名発表者・登壇者] 藤田 晃#:2, 後藤 英光#:2, 伊藤 雅子#:2
1:川崎医療福祉大学, 2:岡山少年院

1. 問題
 近年,少年院では発達上の課題を有する在院者に向け,矯正教育プログラムの一環として,認知機能の向上に取り組むことが期待されている。発達上の課題とは「知的障害」,「情緒障害若しくは発達障害」,「知的能力の制約,対人関係の持ち方の稚拙さ,非社会的行動傾向等」を指し,これらにより処遇上の配慮を要する者を対象とする「支援教育課程」が全国の約20か所の少年院に設置されている。
 認知機能の低さは学業不振だけでなく,衝動抑制力,被害者への共感性や罪の意識,自分の行動の結果を予測する力,問題解決力などの乏しさに関係し,反社会的行動にもつながると考えられている(宮口, 2015)。そのため,少年院では在院者の社会復帰を促進し,再犯を防止するうえでも,出院後も効果が維持される認知機能の向上に取り組む意義は大きい。ただし,認知トレーニングは認知機能向上に必要な実施頻度や継続期間,さらにそれに伴う効果の持続期間については明らかにされていない。在院日数が概ね11か月を目安とされる少年院において,限られた時間を社会復帰や再犯防止により有効に使うためにも,今後,認知機能の変化に必要な実施方法,頻度,期間,そして,効果の持続期間についても明らかにする必要がある。
 そこで,本研究では「情緒障害もしくは発達障害またはこれらの疑いがある者及びこれに準じた者」で処遇上配慮を要するとして第1種少年院(支援教育課程Ⅱ)に在院する少年を対象に週1回50分の認知トレーニングを6回実施し,短期間のグループセッションによる認知機能の変化を明らかにすることを目的とする。
2.方法
参加者 第1種少年院(支援教育課程Ⅱ)に在院し,6回の認知トレーニング全てに参加した男性11名(平均年齢16.2±1.03歳)であった。うち2名はプログラム終了後のデータが収集できなかったため,分析対象から除外した。分析対象となった9名の参加者の平均IQは85.22±20.05であり,いずれも自閉スペクトラム症,注意欠如多動症,軽度知的障害のいずれか,あるいは重複して診断されていた。
倫理的配慮 本研究は筆頭発表者所属先の研究倫理審査委員会の承認を受けて実施された(承認番号18-014)。
プログラムの構成 本研究の対象となった矯正教育プログラムは認知作業トレーニング,SST,認知トレーニング各6回,という複数のトレーニングからなる計18回で構成されている。そのうち,本研究では,認知トレーニング6回を対象とした。参加者はプログラムへの参加が認められた時点で随時加わるシステムとなっている。週1回約60分のプログラムではトレーナー1名がつき,6名から8名の在院者によるグループセッションを実施した。認知トレーニング6回の内容は,宮口(2015)より「記憶」「言語理解」「注意」「知覚」「推論・判断」の5領域に対応する課題を選択した。なお,本研究では個別セッションは実施していない。
評価方法 認知トレーニング開始前と終了後に認知機能の変化を評価するため,参加者に対し,DN-CASを実施した。2回の検査実施間隔の平均は64.22±11.95日であった。
3.結果
 認知トレーニング開始前と終了後のDN-CASの下位領域と全検査の標準得点の平均値と標準偏差を算出し,平均値に差がみられるかどうかを明らかにするため,対応のあるt検定を行った。その結果,認知トレーニング開始前と終了後の「プランニング」(t(8)=7.74,p<.01),「同時処理」(t(8)=4.36,p<.01),「注意」(t(8)=3.54,p<.01),「全検査」(t(8)=8.20,p<.01)において有意な差が認められた。一方,「継次処理」においては有意な差は認められなかった(t(8)=1.31,ns)。
 さらに, DN-CASの同一課題を用いた評価であったため,学習効果を考慮し,前川・中山・岡崎(2007)にもとづき,学習効果を除いたプログラム前後の認知機能を評価した。参加者別に認知トレーニング開始前と終了後の4つの下位領域と全検査の標準得点を比較すると,9名中2名は全ての下位領域および全検査の標準得点に有意な差は認められなかったが,7名については少なくとも1つ以上の下位領域において有意な差が認められた。
4.考察
 少年院在院者の認知トレーニングの効果を報告しているMiyaguchi(2012)はグループセッション1回60分週2回と並行し,個別セッションを1回60分週5回実施し,4か月間プログラムを継続している。その点では,本研究で実施した認知トレーニングの実施期間は明らかに短く,また頻度も低い。また,少年院内では並行して様々な指導が行われているため,プログラム単独での効果について評価することは困難な現状がある。ただし,短期間の集団認知トレーニングであったとしても,並行して行われる矯正教育プログラムとの相乗効果は期待できる。今後は矯正施設において認知機能を向上させる取り組みにどのような介入が最も効果的であるかを明らかにし,教育上の重点箇所を明らかにしていく。

キーワード
認知トレーニング/神経発達症群/神経発達障害群/矯正教育


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