発表

1B-036

街頭犯罪に対する犯罪心理学アプローチ
尼崎市におけるひったくり対策

[責任発表者] 桐生 正幸:1
1:東洋大学

 本研究は,兵庫県尼崎市において増加していた「ひったくり」抑止を,犯罪心理学的分析や手法を用いて対策を講じた社会内実験的介入の経過と結果を報告するものである。
 従来の環境犯罪学による地域防犯のアプローチではなく,犯罪情報分析に基づく加害者行動の具体的な予測と対策,潜在的な被害者への注意喚起などについて,犯罪心理学の知見を導入し様々な試みを実施した。

方法
 尼崎市総務局防災安全部生活安全課より2013年8月に,前年2012年のひったくり認知件数が兵庫県内の約3分の1を占めている状況を受け,件数の減少対策について相談を受け,防犯対策アドバイザーとして,尼崎市主体の防犯活動において犯罪情報分析に基づくひったくり対策を検討,実施した。これら社会内実験的介入の実施開始は,2013年10月から2018年12月である。
 手順は次のとおりである。
 2013年度は,「市民へのひったくり防止キャンペーン:キックオフ・イベント,キャラクターの提示」,「ひったくりの実態把握:市職員との現場フィールド・ワークと1月からの事件データベースの構築」であり,2014年度以降は,「ひったくりの犯罪情報分析:電子地図を用いた分析」,「分析結果に基づくパトロール」,「市民への広報活動:講演やマス・メディアを通じた広報」,2015年度以降は,「実質的な監視システム:分析結果に基づく監視カメラの設置など」を計画し実施した。
 キックオフ・イベントは,9月2日16:00より阪神尼崎駅北側中央公園にて,尼崎市長,尼崎市内の3警察署長,防犯協会4団体代表,地元企業の代表などが参加し実施され,その際にひったくり防止キャラクターの「尼イカ太郎」が発表された。
 10月より,年内に発生したひったくり現場付近,及び近隣スーパーや駅に「尼イカ太郎」を掲示した。
 電子地図への入力変数は3警察署からの提供により,事件情報(発生日時と場所,犯行状況など),加害者情報(目撃情報などによる属性など),被害者情報(属性など)である。このマッピング結果から,多発エリアと事件発生が無い類似エリアとを重点的に,発生時間帯を考慮し青色パトロール車による見回りを強化した。
 また,これら分析とパトロールについて,新聞やTV報道番組の取材などにより広く広報した。
 監視カメラについては,従来の設置型ではなく可動式とし,ひったくり多発エリアにおいて監視カメラが少ない場合に逃走経路などを予測して設置を行った。

結果と考察
 尼崎市と認知件数が多い神戸市とのひったくり認知件数の推移を図に示した。なお神戸市は,ひったくりに特化した対策は取っておらず,街頭犯罪全般に対する防犯活動を実施している。
 2012年,尼崎市258件,神戸市159件であったのに対し,2018年は尼崎市16件,神戸市35件であった。両年間の減少率をみてみると,尼崎市-93.80%,神戸市-78.00%であり,兵庫県全体では-90.51%であった。また,兵庫県全体に対する認知件数の割合は,2012年は尼崎市34.50%,神戸市21.26%であったのに対し,2018年は尼崎市22.54%,神戸市49.30%であった。
 次に,個々の介入の効果を検討する。
 まず,2013年「尼イカ太郎」の掲示前後の認知件数を比較すると,掲示前7,8,9月は52件,掲示後の10,11,12月は43件であった。掲示開始の10月のみが一桁の8件であったことから,一過性の効果のみがうかがわれた。
 具体的な対策を始めた2014年の尼崎市の取り組みに関する新聞報道は14件であった。地域安全まちづくり大会での講演,地元テレビの情報番組の特集など,犯罪情報分析に基づく行政の取り組みが数多く広報がなされた。兵庫県全体に対する認知件数の割合は,2013年32.71%,2014年30.30%であり,これら介入がすぐさま減少効果をもたらしたとは言い難い。しかしながら,可動式監視カメラの導入した2015年は21.78%であり,翌2016年は最も低い19.27%であった。
 市役所と警察との連携が広く知れ渡ったことにより,潜在的な被害者への注意喚起が高まり,ひったくり犯が犯行を抑制したものと思われる。また,犯罪情報分析によりデータが蓄積され,次の犯行エリアや逃走経路の予測精度が高まったことにより,可動式監視カメラの効果が充分に発揮されたことで,早期の検挙が可能となったことも予測される。それら効果は,概ね1年後に表れたように考察されよう。
 以上より,尼崎市における社会内実験的な介入の効果は,総じてあったものと考えられる。

キーワード
犯罪心理学/ひったくり/犯罪情報分析


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