発表

3C-039

動作法は認知制御を活性化する
―順向性制御と反応性制御に着目して―

[責任発表者] 藤川 卓也:1
[連名発表者・登壇者] 服巻 豊:1
1:広島大学

問題
 動作法は,動作を“ある主たる目的のために必要なやり方で合目的的に身体を動かす主体者の心理的活動”と定義する日本独自の心理療法である (成瀬, 1995)。動作法の治療セッションでは,Clientが普段は注意を向けないような微細な身体の動きに注意を向け,動きから得られるフィードバックを基に,主体的に動作の修正を行う作業を通して,現実に向き合う心理的な構えが変化していく。しかし,以上は事例研究等の記述的な検証がなされたのみで,実際にどのような変化が生じるのか実証的に検討する試みが必要である。
 近年の動作法研究では,鏡映描写課題 (今野・吉川,2005) やStroop課題 (Adachi, 2015;今野,2015) を用いた検討により,動作法による認知機能の改善を通して,現実適応が促進される可能性が示唆されている。しかし,動作法が認知制御のどのような情報処理過程に影響を及ぼすかは明らかでない。そこで本研究では,認知制御を情報処理過程に即して定義したBraver (2012) のDual Mechanisms of Cognitive control frameworkを用いて,動作法がどのように認知処理を変化させるかを検討することを目的とする。Braver (2012) は,認知制御に順向性制御と反応性制御という2つの制御モードを仮定した。順向性制御は課題目標を能動的に維持し,関連情報にあらかじめ注意を向けるトップダウンの準備的認知処理であり,反応性制御は課題遂行に干渉する内的・外的情報に気づき,その処理を制御・調整するボトムアップの即時的認知処理である。動作法では,実際のからだの動きに即した微細な動きのコントロールを促進することから,反応性制御が活性化されると想定した。
方法
 実験参加者 動作法を行う動作法群と運動を行う能動的統制群を設けた。実験参加者はA大学の大学院生28名 (男性16名,女性12名,平均年齢23.73±2.47歳) であった。
 指標 ①AX-CPT (Braver et al., 2005):課題の試行条件の性質を利用した式より算出される反応時間及び誤答率のBSI (Behavioral Shifting Index) を順向性制御の指標とした。②修正Stroop課題 (Botvinick et al., 2010) :不一致試行の反応時間及び誤答率を反応性制御の指標とした。
 手続き 1名の参加者につき,2つの認知課題を遂行するため,実験は2回に分けて行った。参加者はまずプレテストの認知課題を遂行した後,動作法群と能動的統制群に無作為に割り当てられた。その後動作法群では,肩の上下課題と,身体に注意を促す教示を行った。能動的統制群には,運動課題を課した。課題終了後,ポストテストの認知課題を遂行し,実験を終了した。 実験の2日目は1日目と違う認知課題を実施した。
結果
 群と時点と試行条件の効果を検討するために,3要因混合デザインの分散分析を行った(Figure1, 2)。AX-CPTでは反応時間のBSI を従属変数に設定した結果,群と時間の交互作用が有意傾向であった (F(1, 23) = 3.724, p< .10, η2 = .139)。単純主効果の検定の結果,両群において時間の単純主効果が有意であり (動作法群;F(1, 23) = 3.010, p< .10, η2 = .215, 能動的統制群;F(1, 23) = 21.079, p< .001, η2 = .637),プレからポストにかけてBSIが増加したことが明らかとなった (動作法群;p< .10,能動的統制群;p<. 001)。修正Stroop課題では,Stroop 課題の誤答率を従属変数に設定した結果,群と時間と試行条件の交互作用が有意傾向 (F(1, 22) = 3.243, p< .10, η2 = .128) であった。単純主効果の検定の結果,動作法群の不一致試行において時間の単純主効果が有意であり (F(1, 44) =17.648, p< .001,η2 = .616),プレからポストにかけて誤答率が低下したことが明らかとなった (p< .001)。
考察
 2つの認知課題成績を比較した結果,動作法群において反応性制御が,動作法群と能動的統制群の両方で,順向性制御が活性化されていることが明らかとなった。以上より動作法では反応性制御の活性化が特徴的である。新しいルールの習得や習慣的なバイアスの克服には反応性制御が重要であるとされており (Munakata et al., 2012),動作法はからだの動きを通して反応性制御を活性化し,現実適応を支えることにつながると示唆された。また,動作法による順向性制御の活性化には,動作の習得度が関連している可能性がある。動作の習得によってトップダウンの身体制御への移行が成されることが,順向性制御の活性化に寄与すると推察される。

キーワード
動作法/順向性制御/反応性制御


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