発表

3C-035

高ストレス状態の測定ツールとしての認知機能アセスメント尺度の開発

[責任発表者] 平井 啓:1
[連名発表者・登壇者] 足立 浩祥#:2, 原田 恵理#:1, 藤野 遼平#:1
1:大阪大学, 2:大阪大学キャンパスライフ健康支援センター

目 的
 産業現場において労働生産性は収益の向上に直結する重要な指標であり,労働生産性に影響を与える労働者の客観的なパフォーマンスを評価することは重要と考えられる。本研究では主になんらかの疾患や症状を抱える時などに変動する状態的機能側面を測定することを目的に,治療と職業生活の両立支援におけるストレスマネジメントのためのコンテンツ・ツール開発の一環として,両立支援におけるストレス状態の指標となる「脳疲労」状態の概念化と,「脳疲労」状態を測定する認知機能アセスメント尺度を開発した。

方 法
調査手続き
 産業保健分野の支援経験を有する専門家3名(精神科医1名,心理士2名)で協議を行い「脳疲労」を「急性・慢性の心理的,物理的な脳への負荷により,脳機能が低下し,社会機能ないし日常生活に支障を来している状態」であると定義した。その上で「脳疲労」状態を定量的に測定する試みとして40項目から成る認知機能アセスメント尺度を作成した。回答は,自身の状態について普段の調子の良い時と,この1週間を比較して質問項目がどの程度当てはまるか,「全く当てはまらない:0」〜「非常によく当てはまる:3」の4段階から選択する構成とした。
調査は,調査を委託する調査会社が保有するモニターに対してインターネット上の画面を通して実施された。1回目の調査を実施したあと1ヶ月後に再調査を行った。
調査対象 労働している18歳〜64歳の男女で,過去10年以内に身体疾患による休職経験を有する者,過去10年以内にメンタルヘルス不調による休職経験を有する者,休職経験のない者の計690名であった。再検査時は,身体疾患による休職経験を有する者,メンタルヘルス不調による休職経験を有する者,休職経験のない者の計500名であった。
調査項目 「脳疲労」の測定のために作成された認知機能アセスメント尺度,および基準関連妥当性の検討のために,プレゼンティーズム測定調査票(WFun),職業性ストレス簡易調査票,日本語版自己記入式・簡易抑うつ症状尺度(QIDS)を実施した。

結 果
 インターネット調査の結果から,欠損のあった回答を除外し,有効回答数は460であった。うち男性211名,女性249名,平均年齢45.25±10.75歳であった。
 最尤法による探索的因子分析を行った結果,4因子構造が妥当であると考えられ,最終的に第1因子および第2因子は6項目ずつ,第3・4因子は各4項目を採択した。第1因子および第2因子は3次因子が想定され,因子分析の結果,第1・第2因子ともに2下位因子が抽出された。
 第1因子は作業の効率や注意機能の低下を表しており「役割遂行機能低下」とした。3次因子として作業効率の低下を表す因子を「作業効率性低下」,注意機能の低下を表す因子を「注意機能低下」とした。第2因子は疲労の蓄積や日常活動性の低下を表しており「社会・日常機能低下」とした。また3次因子として疲労の蓄積を表す因子を「疲労蓄積」,注日常活動性の低下を表す因子を「日常活動性低下」とした。第3因子は自律神経機能を含む睡眠の不調を表しており「睡眠不全」とした。第4因子は不適応になりやすい認知や行動を表しており「不適応的認知・行動反応」とした。α係数についてはα=.77〜.92となり,いずれも十分な内的整合性が示された(表1)。
 また確認的因子分析を行ったところ,適合度指標はGFI=.91,AGFI=.88,RMSEA=.06,AIC=565.70であり十分にデータに適合した結果が得られた。
基準関連妥性を検討した結果,職業性ストレス簡易調査票と各尺度間の相関はr=-.23〜.29(p<.001)と低い相関であったが,認知機能アセスメント尺度とQIDSおよびWFunの間には中等度相関(r=-.57〜.69,p<.001)が示された。よって,十分な基準関連妥当性が確認されたと考えられる。1ヶ月の期間をおいて実施したデータの信頼性係数を算出するとr=.59〜.81となり「睡眠不全」は他の因子と比べて安定性がやや低いが,合計得点間の信頼性係数はr=.79となり十分な信頼性が示された。

考 察
 労働者は自覚の無いまま過度な負荷のもと就業する現状がしばしば認められる。労働者自身が,その時々のパフォーマンスの状態を知り,パフォーマンスの自己管理をすることは,健康に仕事を継続し,個人の生産性を維持・向上させて会社の利益に貢献するための重要な手がかりとなるものと考えられる。本研究では,産業領域における高ストレス状態の測定ツールとして,認知機能アセスメント尺度の開発を行った。今後実際の職域で用いることにより,その有用性の検証が必要である。

キーワード
脳疲労/ストレスマネジメント/尺度開発


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