発表

3C-034

精神疾患に対するスティグマへの脱フュージョンによる介入
―潜在的・顕在的指標による効果測定―

[責任発表者] 津田 菜摘:1,2
[連名発表者・登壇者] 奥山 朝子#:1, 園田 翔希#:1, 牧野 心#:1, 西井 絢香#:1, 武藤 崇:1
1:同志社大学, 2:日本学術振興会特別研究員

目的
精神疾患に対するスティグマへの介入手法としてAcceptance and Commitment Therapy(以下,ACT)の効果が示されている(e.g., Masuda et al., 2007)。ACTとは,第3世代の認知行動療法である。精神疾患に対するスティグマへのACTは,精神疾患についての直接的な情報を提供しないことを特徴とする,パッケージ介入であり,1)スティグマを有していることに気づき,2)スティグマからの行動への悪影響を弱め,3)自身の価値を明確にしていく(Masuda et al., 2007)。従来の介入方法と比較するとACTによる介入は対象者を選ばずに効果が得られている(Masuda et al., 2007)。しかし,本介入方法がなぜ効果的であるかのプロセスは未だ明らかにされておらず不明である。
特に,重要なACTによる介入の要素として,脱フュージョンが挙げられる。脱フュージョンとは自身の思考と距離を置くことと定義される(武藤他訳,2012)。脱フュージョンに着目する理由は,1)Masuda et al. (2007) において使用されたACTによるパッケージ介入の中で最も多くの時間を使用するため,2)自己へのネガティブな思考に対するアプローチ方法として,単体でも効果が示されているためである(e.g., Healy et al., 2008)。そこで,本研究では,脱フュージョンの要素を抽出して介入を実施することで,ACTによる介入の効果に寄与するプロセスを明らかにすることを目的とした。

方法
実験参加者 心理学専攻の大学生55名であった。
手続き 参加の同意が得られた実験参加者は以下の3群に振り分けられた。それは,脱フュージョンエクササイズを実施する群(脱フュージョン群),思考抑制のエクササイズを実施する群(思考抑制群),精神疾患についてのイメージ想起のみを行う群(統制群)であった。介入内容はMasuda et al. (2010) を参考に実施した。実験参加者を1名ずつ実験室に来室させ,介入と,介入前後に質問紙調査とコンピュータ課題によるスティグマ測定を実施した。介入は全部で50分程度であった。さらに,介入後1か月以上経過してから再度来室を求め,フォローアップ測定を実施した。
指標 社会的望ましさの影響を軽減するために,本研究では顕在的指標と潜在的指標を用いて効果測定を行った。顕在的指標として,Linkスティグマ尺度日本語版(蓮井他,1999)を使用した。また,潜在的指標として,Single Category-Implicit Association Test(SC-IAT:Karpinski & Steinman, 2006),Functional Acquisition Speed Test ( FAST:O’Reily et al., 2012)のふたつの指標を用いた。SC-IATは従来最も用いられてきた指標であり,FASTは言語の学習歴を測定できる新たな指標であるために,本研究では両者とも用いて研究を行った。
プロセス指標 介入効果がエクササイズによるものであることを確かめるための操作チェックとして,ACTのプロセス指標(Acceptance and Action Questionnaire-II ; AAQ-II,Cognitive and Fusion Questionnaire ; CFQ,Visual analogue scale ; VAS)を用いた。VASでは,Linkスティグマ尺度に回答した際の確信度を測定した。

結果
アウトカム指標が介入によって変化していたかを検討するために,SC-IAT, FAST, およびLinkスティグマ尺度に対し,それぞれを従属変数とする,時期(Pre,Post,FU)×群(脱フュージョン群,思考抑制群,統制群)の分散分析を実施した。その結果,SC-IAT とFASTについては時期の主効果のみがみられ(SC-IAT:F(2, 96)= 9.33, p<.01, FAST:F(2, 96)=7.45, p<.01),Pre-Post間,Pre-FU間に有意な改善がみられた。Linkスティグマ尺度については主効果,交互作用共に有意ではなかった。
次に,介入が正しく目的通りに実施されていたかを検討するためにプロセス指標(AAQ, CFQ, VAS)に対し,時期(Pre,Post,FU)×群(脱フュージョン群,思考抑制群,統制群)の分散分析を実施した。その結果,AAQ-IIについては時期の主効果がみられ(時期:F(2,104)=4.79, p<.05),CFQについても時期の主効果のみがみられた(時期:F(2, 104)=3.64, p<.05)。最後に,VASについては,主効果,交互作用全てみられなかった。

考察
本研究の目的は,脱フュージョンの要素を抽出して介入を実施することで,ACTによる介入の効果に寄与するプロセスを明らかにすることであった。その結果,本研究において,脱フュージョンエクササイズのみによるスティグマ介入には潜在的・顕在的なスティグマともに十分な効果がないことが明らかになった。しかし,プロセス指標による操作チェックの結果,時期の主効果しかみられず,本研究において用いた脱フュージョンエクササイズが脱フュージョンとして機能していなかった可能性が示された。
このような結果が得られた理由として心理教育が不十分であった可能性が挙げられる。本研究ではMasuda et al. (2010) の介入内容を参考にした。Masuda et al. (2010) における脱フュージョンの対象は,自己に関するネガティブな思考であった。ACTによる介入では,ネガティブな思考の対象が自己か他者かについては区別せず,思考そのものとの付き合い方に着目する。しかし,他者に関する思考は自己に関する思考よりも,自分自身の問題と遠く感じている可能性があり,介入内容の理解度に差がある可能性がある。今後の研究において,心理教育に割く時間を増やした上で,脱フュージョンの効果測定を実施する必要性が示唆された。

キーワード
精神疾患に対するスティグマ/潜在的指標/脱フュージョン


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