発表

3C-029

ネガティブ気分を生成する心的動態を可視化する
ネットワーク解析とデバイスを活用した心理情報学的アセスメント技術の開発

[責任発表者] 山本 哲也:1
[連名発表者・登壇者] 吉本 潤一郎#:2
1:徳島大学, 2:奈良先端科学技術大学院大学

目 的
 不適応状態をもたらす認知行動傾向を変容するためには,先行事象・行動(認知)・結果事象の随伴性の理解が重要となる。すなわち,どのような時に(状況),何をして(行動),何が生じたか(結果)という関数関係を分析することで,認知・行動・情動間の悪循環を把握でき,環境や行動,結果事象への有効な働きかけを行うことが可能となる。
 従来,こうした機能分析は,本人による自己報告や,熟練者による行動観察など,限られた情報に基づいてなされており,情報収集が困難である場合も少なくない。そのため,効果的な情報収集の手法と,それを活用する解析技術を提案することは,臨床実践に関わる様々な心理学領域において,極めて有用であると考えられる。
 そこで本研究では,山本・吉本(2017)の技術を応用し,ネガティブな気分の生起と関連する日々の行動的・生理的・心理社会的情報を,デバイス等を活用して収集した。加えて,変数間の連鎖構造の可視化を目的としたネットワーク解析を適用することで,効果的・効率的な行動変容法のための基盤技術の創出を試みた。
方 法
 研究対象 健康上の問題が認められない30代男性。研究実施に関わる同意は得られており,個人が特定されないよう表記を一部修正した。また,本研究は徳島大学大学院社会産業理工学研究部倫理審査委員会による承認を得ている。
 測定指標 (a)ネガティブな気分や疲労感などの気分状態の頻度・程度,(b)ネガティブな思考や反すうなどの認知行動傾向の頻度,(c)頭痛や腰痛などの心身の症状の頻度,(d)対人交流などの出来事の頻度,(e)職務や余暇活動などに関わる行動の頻度,(f) 心拍,睡眠時間,運動量などの健康習慣の程度,(g)休日の有無の計56種類の記録を求めた。
 調査手続き 約10ヶ月の間,上記の変数について日々の生活の中で記録を求めた。記録を容易・簡便にするため,スマートフォンアプリ(Count Log Lite ver.1.8.3;moodtools ver.1.3)とスマートウォッチ(Fitbit Alta HR)を用いた。
 解析手続き 313日分のデータについて,各指標をZスコア化し,相関関係に基づいて変数を制約した後,変数間のネットワーク構造をモデル化した。解析は,R(ver.3.1.1)とCytoscape(ver.3.7.1)で行われた。
結 果
 ネットワーク解析の結果(Figure 1),「ネガティブな気分」の生起と関連する重要度(中心性)の高い変数(ノード)として,「ネガティブな思考」や「反すう」,「後悔」といった認知傾向と,「ネガティブな出来事の経験」,「日中の疲労感」が示された。また,「ネガティブな気分」は,「ネガティブな思考」や「反すう」と相互に増悪する関係にあることや,「日中の疲労感」は「仕事量」や「前夜の睡眠時間の短さ」との関連が認められた。
 一方で,「ネガティブな気分」の抑制と関連する重要度の高い変数として,「幸福感」といった気分状態と,「努力後の自らへのご褒美」といった行動傾向が示された。加えて,「幸福感」の増大には,「休息」,「家族と過ごす時間」,「努力後の自らへのご褒美」などが相互に関連した構造にあることが認められた。
考 察
 本研究の結果,ネガティブな気分に関連する認知行動傾向(反すう,強化子の設定など),生活習慣(疲労感,仕事量,休息など),環境事象(ネガティブな出来事など)の間のネットワークが可視化された。この結果は,本技術が個人の心・身体・環境間の連鎖構造を抽出し,随伴性のアセスメントや介入方法の提案につながる可能性を示唆している。
 たとえば,本結果における「家族と過ごす時間」は,他の変数と多く結びついたノードの一つであり,ポジティブ気分や幸福感,活動量の増大などと関連することに加え,仕事量や怠惰な時間など,幸福感と負の関連のある変数の低減とも関連していた。そのため,これまでの生活習慣を見直すなど,家族と過ごす時間を増やすよう介入することで,直接的・間接的に幸福感を高め,結果的にネガティブ気分の抑制につながりうる方略の検討などにつながる可能性がある。
 以上のように本技術は,特定の状態と関連する自らの習慣への気づきを促し,適切な行動指針の検討に寄与しうるものと考えられる。また,相互作用ネットワークを理解することによって,広範かつ大きな影響性を有する変数(介入対象)を明らかとし,個人に最適化された効果的・効率的な介入技術の一つにできることが期待される。
 今後は,時系列情報を含めての因果の方向性の同定や,他の可視化に優れた情報技術との精度の比較,解析に基づく介入の効果検討など,本技術の有用性の検証が望まれる。
引用文献
山本哲也・吉本潤一郎 (2017). 人工知能とライフログを活用したQOL向上のための行動変容法 日本健康心理学会第30回大会発表論文集, 126.

キーワード
ネットワーク解析/e-Health/心理情報学


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