発表

3C-028

通信制高校生に対する抑うつ予防プログラムの効果の検討

[責任発表者] 大島 陸:1
[連名発表者・登壇者] 吉良 悠吾:1,2, 神原 広平:1, 重松 潤:1, 松本 美涼:1, 廣瀬 春香#:3, 増永 希美:1,4, 満石 花歩:1, 野口 由華:1, 波光 涼風:1, 尾形 明子:1
1:広島大学, 2:日本学術振興会特別研究員DC2, 3:Rodina リワークセンター横川, 4:医療法人せのがわ

目的
 近年,我が国における高校生の抑うつの高さが指摘されている (山口他, 2009)。青年期のうつ病経験は,将来のうつ病及び他の精神疾患のリスクを高める可能性があることが示唆されており(Melvin et al., 2013),青年の抑うつ予防は我が国における課題の1つであるといえる。中でも,通信制高校に通う生徒は,入学以前に不登校やいじめ等の対人的問題を経験した生徒が多く(平部他, 2016),カットオフ値を超える高い抑うつ得点を有していることが示されている (大島他, 2018)。それを受けて近年,青年期の抑うつ予防を目的とした介入研究が行われているが(堤, 2015),その多くが全日制高校生を対象とするものであり,通信制高校生に対しても,抑うつの予防・解消を目的とした介入及びその効果の検討を行う必要があるといえる。抑うつの低さは,他者と適切にかかわる能力であるソーシャルスキル(以下,SS)の高さと関連するとされ(今津, 2005),対人関係上の問題を有しているという特徴を持つ通信制高校生においては,SSが低いことが推察される。よって通信制高校生に対し,SSの向上を目標としたトレーニング(Social Skills Training; SST) を行うことは,抑うつの予防・解消において有効であると考えられる。そこで本研究では,通信制高校生に対して抑うつ予防・解消を目的とした学級規模のSSTを実施し,その効果を検討することを目的とする。
方法
対象者 通信制A高校の第1回及び第4回の介入に参加した1年生66名を対象とした。
介入内容 先行研究で行われた学級規模でのSST(Kira et al., 2018)を参考に,対人行動スキルの学習(1回),認知再構成(1回),感情コントロールスキルの学習(1回),問題解決スキル(1回)からなる介入プログラムを作成し,授業時間を用いて計 4 回実施した(年4回,50分)。
効果測定尺度 (1)抑うつ:CES-D (島他, 1985 ; 20項目4件法),(2)ソーシャルスキル:ソーシャルスキル自己評価尺度短縮版 (吉良・尾形・上手, 2018 ; 20項目4件法),(3)対人関係へのネガティブな考え方:認知のゆがみ尺度 (岡安, 2009 ; 16項目4件法),(4) 青年用適応感尺度(大久保, 2005 ; 30項目4件法)のうち,下位因子である「居心地の良さの感覚」(11項目4件法) を用いた。
手続き 5月に質問紙を配布し(pre),1年にわたって4回の介入を実施した後,12月に再度質問紙を配布した (post)。
倫理的配慮 本介入は事前に学校長から介入と質問紙調査を行うことの同意を得ており,生徒には質問紙に回答する際に紙面にて説明を行い,回答が成績評価と関連せず,途中で回答をやめても構わないことを明記した。
結果
 SST前後での各指標得点の変化を検討するため対応のないt検定を行った結果,抑うつ得点(t= -4.27 (56), p<.01, d=-.58),SS得点(t= -2.00 (61), p<.10,d=-.22),学校適応得点(t = -2.05 (61), p<.05, d=-.21)において有意もしくは有意傾向の増加が認められた。
そこで,SST前後でのSS得点の変化量と,抑うつ得点,学校適応得点の測定時期との関連を検討した。初めにSS得点の変化量をクラスター分析したところ,“SS得点低下群”“SS得点変化なし群”“SS得点増加群”の3クラスターに分類された。この分類に基づき,SS得点変化量の異なる3群と測定時期を独立変数,抑うつ得点,および学校適応感得点を従属変数とした2要因混合計画の分散分析を実施した。結果,学校適応感のみにおいて測定時期と群の交互作用が認められ(F= (2,57) = 5.06, p<.01),単純主効果検定の結果,SS得点増加群のみ,SST後の学校適応感得点の増加が認められた(F= (1,57)13.25, p<.01 ; Figure 1 参照)。
考察
 本研究は,対人関係上の問題を抱えている生徒が多いとされる通信制高校生に対して,抑うつの予防・解消を目的としたSSTを実施した。その結果,SSTにより通信制高校生のSSが増加し,さらにSSが増加した生徒において学校適応感が増加したことが示された。このことから,対人関係に問題を抱えた生徒が多いという特徴を持つ通信制高校においては,生徒のSSを高めることで,人と交流する機会である学校における適応感が増加することが示された。一方で,SSが増加したにも関わらず,仮説とは異なり抑うつは悪化していた。これらのことから,通信制高校生に対してSSの向上を目標としたSSTの有効性が示された一方,本介入期間中に発生した豪雨災害が影響したことも考えられるが,通信制高校生の抑うつ症状は,対人関係の問題によるものではない可能性が示唆された。通信制高校は全日制,定時制高校と比してスクーリングの回数が少なく,対人接触の場面が少ない。そのために,対人関係の問題が起こりにくく,それらが抑うつに及ぼす影響は小さいのではないかと考えられる。今後は,通信制高校生の抑うつに及ぼす影響を検討し,抑うつ予防に有効な介入を開発する必要がある。

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