発表

3C-027

母親の抑うつが子どもの自己制御と双極性障害傾向に及ぼす影響
子どものADHD傾向の有無による違い

[責任発表者] 田中 麻未:1
[連名発表者・登壇者] 髙橋 雄介:2
1:千葉大学社会精神保健教育研究センター, 2:京都大学白眉センター

目 的
 成人期の双極性障害患者の初発年齢が10代の時期である症例も多くみられるものの(Perlis et al., 2004),その診断や評価の難しさから子ども期の双極性障害は見逃されているケースも少なくないことが報告されている(Scott-Gurnell et al., 2014)。子どもの双極性障害の評価の難しさの理由の一つとして,注意欠如・多動性障害(ADHD)との鑑別の困難さや併存頻度の高さが挙げられる(Singh et al., 2006)。また,子ども期にADHDの徴候が認められている子どもは,その徴候が見られない子どもよりも双極性障害の初発年齢が早いことが懸念されている(Sachs et al., 2000)。したがって,子ども期の双極性障害に関連する要因を明らかにするためには,ADHDの併存の可能性を含めた検討が必要である。双極性障害は,単極性のうつ病・躁病と比べると自殺企図率が高く,予後も悪い傾向にあることから(Schaffer et al., 2015),子ども期における双極性障害傾向に関連する心理学的な要因を検討することは一次予防の観点からも重要である。
 双極性障害を引き起こす心理学的な要因の特徴として,個人内で情動がうまく調節できないことが考えられる。とりわけ,躁症状の予測因子として衝動抑制の困難さが示されていることから(Van Rheenen et al., 2015),自己制御にかかわる問題との関連が指摘されている(Nigg, 2017; Tseng et al., 2015)。また一方で,養育者の精神的不健康が子どもの精神的不健康に与える影響に着目した研究も多数蓄積されてきており,メタ分析の結果からは,母親の抑うつは子どもの精神病理と一貫して有意な正の関連を持つことが報告されている(Goodman et al., 2011)。さらに,母親の抑うつは,子どもの問題行動に直接的な関連を持つだけでなく,子どもの自己制御を媒介して問題行動に影響を及ぼすことも示されている(Choe et al., 2014)。
 そこで,本研究では,10–16歳の子どもを持つ母親を対象に,子どもがADHD傾向の評価基準を満たしているかどうかによって,母親の抑うつが子どもの自己制御を媒介して子どもの双極性障害傾向に及ぼす影響が異なるのかどうかを検討することを目的とした。

方 法
 調査対象者は千葉県下の小学校・中学校・高等学校に通う10–16歳の子ども(平均年齢 = 13.14, SD = 1.94)をもつ母親696名であった(平均年齢 = 43.73, SD = 4.73)。母親の抑うつはうつ病自己評価尺度を用いて測定した(Radloff, 1977, α = .88)。子どもの双極性障害傾向はChild Bipolar Questionnaire(CBQ, Papolos et al., 2006)のCBQ Core Indexの22項目を用いて測定した(α = .92)。また,ADHD傾向については同じくCBQのADHDの評価項目を使用した(9項目; α = .92; 最低点は0点, 最高点は9点)。ADHD傾向の群分けには,本尺度で設定されているカットオフ値(3点)を用いた。自己制御の測定にはGrit Scale(Duckworth et al., 2007)の12項目を用い,最尤法による探索的因子分析の結果,先行研究通り,努力と忍耐(6項目; α = .84)と興味の一貫性(6項目; α = .83)の2つの下位次元を確認した。構造方程式モデリングを行う際の統制変数として,母親の学歴,世帯年収,子どもの性別と年齢を用いた。

結果と考察
 母親の抑うつと子どもの双極性障害傾向との間には正の相関がみられ(r = .33, p < .01),母親の抑うつと子どもの自己制御の下位次元と双極性障害傾向との間にはそれぞれ負の相関が確認された(努力と忍耐, r = −.18, p < .01; 興味の一貫性, r = −.29, p < .01)。
 次に,子どもがADHD傾向の評価基準を超えている群(N = 155)と超えていない群(N = 541)の2群に分類し,母親の抑うつは,子どもの自己制御を媒介して,子どもの双極性障害傾向に及ぼす影響に違いがあるかどうか,自己制御の下位次元ごとに多母集団同時分析を行った。
 努力と忍耐の下位尺度においては,両群ともに,母親の抑うつの高さが子どもの双極性障害傾向の高さと関連する直接効果は認められたものの(βs = .27, .30, p < .01),母親の抑うつから努力と忍耐を媒介して子どもの双極性障害傾向への間接的な影響は示されなかった。興味の一貫性の下位尺度においては,ADHD傾向の評価の有無によって影響の違いが認められた。ADHD傾向の評価基準を超えている群では,興味の一貫性を通じた媒介効果は認められず,母親の抑うつの高さが子どもの双極性障害傾向の高さと関連する直接効果のみが示された(β = .29, p < .01)。一方,ADHD傾向の評価基準を超えていない群においては,上記のような直接効果に加えて(β = .25, p < .01),母親の抑うつは子どもの興味の一貫性の低さと関連し(β = −.17, p < .01),それが双極性障害傾向を高める(β = −.14, p < .01)という部分的な媒介効果も確認された。
 本研究の結果より,ADHD傾向がみられない子どもでは,彼らの自己制御とりわけ興味の一貫性が母親の抑うつと子どもの双極性障害傾向との関連を部分的に媒介することが明らかとなった。このことは,子どもの双極性障害傾向の低減のためには,子どもの不注意や多動行動の徴候の多少を考慮したうえで,母親の抑うつに対する対応と同時に,子どもの興味の一貫性を促すような働きかけが部分的に有効かもしれない可能性を示唆するものである。しかしながら一方で,ADHD傾向がみられる子どもにおいては自己制御の媒介効果は認められなかったため,その他の心理学的な要因が影響している可能性も考えられるので,今後の検討が必要である。

キーワード
母親の抑うつ/自己制御/双極性障害傾向


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