発表

3C-026

トランスジェンダーにおけるコーピング尺度の開発
Female To Male当事者に焦点を当てて

[責任発表者] 安藤 孟梓:1
[連名発表者・登壇者] 池田 官司#:2, 針間 克己#:3, 橋本 恵理#:4, 齋藤 利和#:5, 坂野 雄二:6, 中野 倫仁#:6
1:重仁会大谷地病院, 2:北海道文教大学, 3:はりまメンタルクリニック, 4:札幌医科大学, 5:北仁会幹メンタルクリニック, 6:北海道医療大学

 目的
 身体的性と性自認の間に違和感を持つトランスジェンダーは,特有のストレッサーに慢性的に曝されることで精神的健康が悪化する。Meyer (2003) は,特有のストレッサーにおける緩衝要因としてコーピングを挙げているが,トランスジェンダーのコーピングに関する研究は5つしかなく,定量的に測定する方法も確立されていない(Valentine & Shipherd,2018)。
 そこで,本研究はトランスジェンダー特有のストレッサーに対するコーピングを測定する尺度を開発する。コーピングを定量的に測定することは適切なコーピングを明らかにすることに繋がる。なお,先行研究では,身体的性が男性で性自認が女性であるMTFを対象とした先行研究が多く,身体的性が女性で性自認が男性であるFTMに関する基礎情報が不足していることから,FTMに焦点を当てることとする。
 方法
予備調査 FTM当事者22名を対象としてコーピング内容について自由記述式で回答を求めた。収集された76項目について,トランスジェンダーの面接経験がある臨床心理士3名が継続的比較分析を実施し,40項目の項目プールを作成した。GID外来専門医に内容的妥当性の確認を行った結果,すべての項目で妥当性を有すると判断された。
本調査 性同一性障害と診断されたFTM当事者74名を対象とした。
 調査内容 (1)フェイスシート:年齢と現在受けている治療,(2)Coping Inventory of Female To Male (CIFTM):トランスジェンダー特有のストレッサーに対するコーピングの使用頻度を5件法で測定。
手続き 実施機関の倫理委員会から承認を得てから行った。口頭または書面で説明を行い,同意が得られた研究協力者に調査材料一式を手渡しした。回収は郵送法を用いた。
 分析方法 解析にはR 3.5.2 for windowsを用いた。探索的因子分析における因子数の決定基準は,(a) 平行分析,(b) 最小平均偏相関,(c) .40以上の因子負荷量を示す項目が1因子につき3項目以上見られる,(d) 各因子の解釈可能性,の4つであった。項目の除外基準は,(a) いずれの因子にも.40以上の因子負荷量を示さない,(b) 2つ以上の因子に.40以上の因子負荷量を示す,であった。
 結果
調査協力者の属性 平均年齢は27.58 (SD=±5.86) 歳であった。30名が精神科に通院中,18名がホルモン療法を実施中,26名がホルモン療法および何らかの身体的手術を実施済みであった。
因子構造の検討 治療方法を要因とした分散分析を行い,主効果が確認された4項目を削除した。決定および削除基準に基づき,因子数を4,5に指定して探索的因子分析 (最小残差法,独立クラスター) を行った結果,19項目4因子構造が得られた(Table 1)。累積寄与率は50.80%であった。
 第1因子は,自分から性自認を表出しないように振る舞う内容だったため,「性自認の非主張」とした。第2因子は他者に相談したり,相手に不快な行為を伝える内容だったことから,「援助希求」と命名した。第3因子は原因を考えたり,他者交流を避ける内容だったことから,「反すう・回避」とした。第4因子は,男性として認識されたり,生活することを目的とした内容であったため,「性自認一致行動」とした。
信頼性の検討 CIFTMの各下位因子について,α係数,ω係数を算出した。その結果,第1因子から第3因子は十分な信頼性を有することが確認されたが(α=.74-.75,ω=.75-.76),第4因子では確認されなかった(α=.63, ω=.63)。
   考察
 本研究は,トランスジェンダーのうち,FTM当事者のコーピングを測定する尺度であるCIFTMを開発し,信頼性と妥当性を検討した。その結果,CIFTMは4因子構造であり,内容的妥当性と部分的な信頼性を有することが示された。また,基礎情報が不足しているFTM当事者のコーピングの内容が明らかになった。トランスジェンダーは社会生活を送る中で摩擦が起きるため,対人場面が想定されるコーピングが中心となっていた。今後,各コーピングが精神的健康に及ぼす影響や作用機序について検討する必要がある。

キーワード
トランスジェンダー/性的少数者/コーピング


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