発表

3C-025

音読に困難を示す児童に対する視覚記憶を活用した学習支援の検討

[責任発表者] 中川 佳子:1
1:都留文科大学

 発達性ディスレキシアとは,神経生物学的原因に起因する障害で,音韻処理や視覚認知力などの障害により,文字の音韻化や音韻に対応する文字想起の正確性や流暢性に困難が見られ,年齢や全般的知能の水準からは予測できないものと定義されている(発達性ディスレキシア研究会, 2016)。日本語は英語圏に比べて文字の視覚的要素に関する機能が文字学習に大きく関与しており,視知覚認知機能を評価してその原因が検討されている(後藤多可志他, 2010)。また,発達性ディスレキシアは読みの困難さだけでなく,算数の困難さを伴うことが多く,加減乗除のような基本的な計算能力の習得に問題が示される(熊谷, 2012)。計算が困難な子どもは基本的なたし算やひき算で記憶をベースとした能力が修得できずに,指などで数える方略を使用するために計算に時間がかかる(伊藤, 2018)。また,算数の学習に困難を示す子どもは記憶に関連する誤りがしばし観察される(河村, 2018)。そこで,本研究では視覚記憶を活用した漢字と計算の学習支援を行い,その効果を検証することを目的とする。
【方法】
 対象児は中学校に在籍する女児1名。小学校高学年時に教育相談所から知的能力は下限範囲にあり,学習障害の疑いありと判定され通級による支援を受けている。読字は,行飛ばしや逐語読みを行い,拗音,促音,長音を読むことができない場合や読み間違い,似た単語の区別がつかないことがあり,国語の教科書はほとんどの漢字に読み仮名が振ってあった。書字は,偏と旁が逆になってしまう場合や,鏡文字,書き順の誤りがしばしば見られた。助詞などを誤る文法的誤りもあった。漢字は3学年以上下の学年の漢字すら誤る場合があった。これらから,LD-SKAIPのステップ1の音韻意識とコーディングに困難がある発達性読み書き障害が疑われた。WISC-4では全検査IQ(FSIQ=80)は境界域から平均の下と低く,言語理解指標,知覚推理指標,ワーキングメモリ指標と比べると,処理速度指標(PSI=94)が高かった。
 支援を行うために,聴覚記憶を評価する数唱課題と,視覚記憶を評価するRey-Osterrrieth複雑図形,標準読み書きスクリーニング検査のなかから,音読の流暢性を評価するため,ひらがな1モーラ単音音読,単語と非単語の音読の所要時間と正確性,自動化能力を評価するRAN課題を実施した。これらの評価結果をもとに,以下漢字と計算の支援を支援員により,週一回1時間程度で小学校高学年から1年程度実施した。
 漢字の読み書き支援:小学校3年の漢字ドリルから毎週5種類の漢字の読みを支援者とともに発音しながら振り仮名をふるとともに,書き取りでは書き順を正確に記憶することで,目と手の協応をはかりながら,漢字の読みを発声させる練習を行い,自宅で翌週までに該当の漢字を1回以上練習するよう要求し,翌週に読み書きテストを実施した。計算の支援:中学校の数学で勉強する正負の計算に困難があり,大きな数直線を作成し,計算問題に対して,基準となる数を0ではなく,計算問題によって基準を変更して,数直線をどちらに動かせばよいかを確認するよう要求した。また,答えを書くだけでなく,計算過程を記入するよう計算過程の記入枠を設けた。次に,コインを使ったお金の計算として,実際のコイン(500円玉一枚と100円玉五枚)を用いて,お金の計算問題を視覚提示して,回答するよう要求した。最後に,針を動かせる時計版として大きな時計を作成し,磁石を使って長針と短針を動かせる時計と針,何分針を動かしたのかを忘れてしまうため,5分,10分,15分,20分のフィルムを作り,時計版に合わせて経過後の時間を視覚的に計算するよう要求した。
【結果】
 聴覚記憶を評価する数唱課題の結果は5桁であった。Rey-Osterrieth複雑図形は36点法で評価し,岩田・下條(2015)の定型発達児の平均と比較したところ,模写課題は低かった(対象児:28点,定型発達:30.9点)が,直後再生課題(26点,定型発達:16.9点)と遅延再生課題(24点,定型発達:11.7点)は高かった。音読課題では1モーラのひらがな単音音読で拗音を中心に誤反応が5か所示された。また,単語音読所要時間は26秒,誤反応4,非単語音読所要時間は49秒,誤反応8隣,どちらも+2SD以上であった。RAN課題は平均10.0秒で正常範囲であった。
 漢字支援では,宿題の漢字に対する漢字テスト(書字6問,読字9問)を12回実施した結果,平均正答率は書字82%,読字83%となった。計算支援では,正負の計算を毎週6問実施し,計算ルール(例:正の数-負の数=正の数)と数直線の書き方を指導した。3回目以降はルールを正確に判断したが,難度を上げた計算問題では,数直線上の負の数が増えるとマイナスの数も増えていくことを理解できなかった。そこで,計算過程(例:(+4)-(-3)=(+4)+3)を書く記入欄を設け,誤答が減少した。また,お金の計算では,指を使って計算する癖があったが,頭の中でコインを動かすイメージを持つことで,10回目以降はコインを使わずにお金の計算ができるようになった。さらに,時間の計算では5分,10分などのフィルムを用いて時間の計算ができるようになった。
【考察】
 本研究の目的は視覚記憶を活用した漢字と計算の学習支援を行い,その効果を検証することであった。対象児の聴覚記憶と視覚記憶を評価した結果,視覚記憶が定型発達と比較して高く,視覚記憶を活用して支援を行なった。漢字支援では,視覚と運動,聴覚を一体として漢字の学習を行い,現在,小学校6年程度の漢字の読み書きができるようになった。また計算支援では,計算過程や数直線,実際のコインを用いることでスムーズに計算ができるようになり,正答率も上昇した。これらから,音韻意識やコーディングの困難により音読に困難を示す対象児の視覚性記憶の強さを活用した漢字と計算の学習支援は有効な方法であると考えられる。

キーワード
発達性読み書き障害/音韻認知/視覚記憶


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