発表

3B-030

ポジティブ刺激を用いた注意バイアス修正が社交不安者の表情画像に対する接近?回避の傾向に与える影響

[責任発表者] 倉重 乾:1
[連名発表者・登壇者] 田中 恒彦:1
1:新潟大学

目的
 社交不安者の外的な脅威刺激に対する接近的な注意の偏り(注意バイアス)は,社交不安の症状を生起・維持させると考えられている。この注意バイアスを修正することで,社交不安の症状を低減させる試みを注意バイアス修正と呼ぶ。近年,この注意バイアス修正の改変法として,脅威刺激からの回避に加えて,喜び表情などのポジティブ刺激への接近を訓練する手続き(ポジティブ接近訓練)が注目されている(Sass, Evans, Xiong, Mirghassemi & Tran, 2017)。一方,社交不安者はポジティブ刺激に対して脅威刺激と類似した回避的な反応傾向を示すことが報告されており(Heuer, Rinck & Becker, 2007),ポジティブ接近訓練の作用機序には疑問が残る。そのため本研究では,ポジティブ接近訓練がこの回避的反応傾向に与える影響について検証することを目的とした。

方法
【対象】
中程度以上の社交不安症状(LSAS≧42)を示す大学生13名(男性5名,女性8名)を対象とした。
【手続き】
社交不安症状を測定する質問紙であるLSAS日本語版(朝倉ら,2002)と接近-回避課題による表情画像に対する反応傾向の測定を,それぞれドットプローブ課題による注意バイアス修正の前後に実施した。
【質問紙】
LSAS日本語版は全24項目の社会的場面について,それぞれの場面に恐怖感を感じるか,またそのような場面を回避するかについて4件法で回答するものである。
【反応傾向の測定】
表情画像に対する反応傾向の測定には接近-回避課題を用いた。接近-回避課題では,コンピュータ画面中央に赤あるいは青に色づけされた喜び,嫌悪,中性いずれかの表情画像が提示される。対象者は,アナログパッドを用いてその表情画像の色(赤か,青か)に注目し画像の拡大・縮小を行う(例:赤は拡大し,青は縮小する)。アナログパッドを手前に引けば画像は拡大し,奥に倒せば画像は縮小する。一定の大きさに達すると,画像は消失し次の試行へ移行する。分析には各試行の初発反応時間を使用した。試行は練習32試行,本試行128試行を注意バイアス修正の前後に実施した。
【注意バイアス修正】
注意バイアス修正にはドットプローブ課題を用いた。ドットプローブ課題では画面の左右両端に表情画像が500ms提示される。本研究では,2つの画像のうちいずれかは喜び表情であり,もう一方は中性あるいは嫌悪の表情である。画像の提示終了後,いずれかの画像が提示されていた位置に標的刺激となる「E」あるいは「F」の文字が提示される。実験対象者は,この「E」「F」を弁別し,キーボードを用いて反応を行った。注意バイアス修正の手続きでは,この標的刺激を常に喜び表情が提示されていた側に提示し,喜び表情への接近的な注意を獲得させた。試行は練習16試行,本試行128試行を実施した。

結果
 LSAS得点の介入による変化は認められなかった(p=0.86)。また,介入前の接近-回避課題に対する反応時間について,表情種3×拡大・縮小2の分散分析を実施したところ,表情種(p=0.67),拡大・縮小(p=0.47)の主効果ならびに交互作用(p=0.30)のいずれも有意な差は認められなかった。介入による接近-回避課題への影響を検証するため時期2×表情種3×拡大・縮小2の分散分析を行ったところ,時期による主効果が有意であり,接近-回避課題に対する全体的な反応時間はpre時点と比較しpost時点で素早いことが認められたが(p=0.02),表情種(p=0.96),拡大・縮小(p=0.15)の主効果および交互作用(p=0.39)はいずれも有意ではなかった。
 次に,接近-回避課題の反応時間とLSAS得点の関連を検証するため,LSAS得点を目的変数,反応時間の変化量(各反応のpre時点の反応時間-post時点の反応時間)を説明変数とする重回帰分析を行った。結果,嫌悪表情拡大反応(B=131.33,p=0.049)で有意な,喜び表情拡大反応(B=-242.51,p=0.056)で有意傾向の予測が認められた。abjR2は0.35であった。また,これらは嫌悪表情拡大反応と喜び表情拡大反応の反応時間のみを説明変数とした場合にも同様であった(嫌悪表情拡大反応:B=129.95,p=0.032,喜び表情拡大反応:B=-154.89,p=0.063,abjR2=0.286)。

考察
 1セッションのポジティブ接近訓練では社交不安症状に影響は見られなかった。これは注意バイアス修正で一般的に行われるセッション数が2週間で8回程度であるのに対して,回数が少なかったことが要因として考えられる。また,先行研究でみられた社交不安傾向者の表情に対する接近-回避傾向は再現されなかった。
 注意バイアス修正は社交不安症状に対して効果を及ぼさなかった一方,接近-回避課題への影響は注目すべき点である。課題への反応時間の全般的な短縮は課題への馴化の要因も含め慎重な検討が必要である。しかし,反応時間の変化量に注目した場合には,強い社交不安症状を示す者は嫌悪表情に対して接近的となるが,喜び表情には回避的となる傾向がある。このことから,ポジティブ接近訓練は,特に社交不安症状の強い者に対しては,脅威刺激への接近という機能をもつ可能性が考えられる。

キーワード
注意バイアス修正/接近ー回避課題/社交不安


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