発表

3B-029

催眠に対する態度が催眠感受性に及ぼす影響における日常的解離傾向の調整効果

[責任発表者] 中谷 智美:1
[連名発表者・登壇者] 大浦 真一:2,3, 今井田 貴裕:1, 福井 義一:2
1:甲南大学, 2:甲南大学, 3:国際心理支援協会

 目 的
催眠感受性は,催眠暗示に対して反応する個人の能力である。催眠感受性の個人差を左右する要因の一つに,催眠に対する態度が挙げられる。これまで,催眠に対する態度が肯定的であるほど催眠感受性も高いと言われてきた(Barber, 2000; Green & Lynn, 2010)。一方で,催眠に対する態度と催眠感受性との関連は非線形であるという報告もある(Spanos et al., 1987)。そのため,催眠に対する態度と催眠感受性の関連を調整する要因が他にも存在する可能性があると思われる。
 また,解離性同一性障害についての初期の治療理論(Bliss, 1984)から,催眠感受性と解離傾向の関連についても検討されてきた(Hilgard, 1977)。その結果,臨床群においては催眠感受性と解離傾向の間には一貫して正の相関がある(Dell, 2017)のに対して,健常群においては,両者に正の相関があるという報告(Butler & Bryant, 1997)と,無相関であるという報告(Dienes et al., 2009)が混在している。その理由として,これらの研究で用いられたDissociative Experiences Scale(以下DES: Bernstein & Putnam, 1986)は,重篤な解離性障害のスクリーニングを目的として作成されたため,健常群の解離傾向を測定するのにそぐわなかった可能性がある(Putnam & Carlson, 1998, 白根訳, 2000)。しかし,日常的解離尺度(舛田・中村, 2005)を用いて,大学生を対象に正常な解離現象を測定した場合でも,両者の間に有意な関連は得られなかった(中谷他, 2018a)。
 また,催眠に対する期待が催眠に対する態度に及ぼす影響において解離傾向の調整効果が報告されている(福井・小原, 2013)ことから,催眠に対する態度が催眠感受性に及ぼす影響についても,何らかの調整効果がある可能性が考えられる。以上から本研究では,催眠に対する態度が催眠感受性に及ぼす影響における日常的解離傾向の調整効果を検討した。
 方 法
研究協力者:大学生・大学院生43名(男性15名,女性28名: 平均年齢24.95歳,SD =11.35)の協力を得た。本研究は,中谷他(2018a, b, 2019)や福井他(2017),Fukui et al.(2018)で用いたものにデータを追加して分析した。
尺度構成:催眠感受性の測定のためにハーバード集団催眠感受性テスト型式A修正版(以下HGSHS: A; Shor & Orne, 1962, 高石訳, 未刊行)を使用し,客観的催眠感受性とKirsch et al.(1990)による主観的催眠感受性,催眠に入っていた深さの全般的な主観的評価,催眠中に経験した他の主観的体験の評価の4つの下位尺度得点を得た。催眠に対する態度を測定するために催眠態度尺度(清水, 2009)を,日常的解離傾向を測定するために日常的解離尺度(短縮5項目版)(舛田・中村, 2005)を使用し,各尺度得点を得た。
手続き:催眠感受性を測定する実験は,2人以上の協力者を対象に実施された。録音された催眠誘導と12の催眠暗示の音声を呈示後,HGSHS: Aへの回答を求めた。質問票調査は実験とは別の日に実施された。質問票には他にも本研究で使用しない尺度が多数含まれていた。
 結 果
 催眠感受性の各下位尺度を従属変数として,Step 1に日常的解離傾向と催眠態度を独立変数として投入し,Step 2に両者の一次の交互作用項を投入した階層的重回帰分析を行った。客観的催眠感受性について催眠態度の主効果が有意であった(β= .32, p < .05)のに加えて,交互作用(β=-.42, p < .01)が有意であったため,単純傾斜の検定を行った結果をFigure 1に示した。催眠態度の主効果は日常的解離傾向が低いときに極端に高くなる(β= .74, p < .01)のに対して,日常的解離傾向が高いときにはその効果がなくなる(β=-.09, n.s.)ことが分かった。他の主観的な経験については催眠態度の主効果が有意傾向であった(β= .27, p < .10)が有意な交互作用はなかった。催眠感受性の他の下位尺度について,有意な主効果や交互作用は見られなかった。
 考 察
 本研究から,催眠に対する態度が肯定的であるほど客観的な催眠感受性は高くなるが,その効果は日常的解離傾向が低いときにしか見られないことが分かった。このことから,催眠に対する態度が客観的催眠感受性に及ぼす影響を日常的解離傾向が調整していることが示唆された。催眠感受性を測定する尺度で測定されているのは,解離とは似て非なる,暗示に反応する能力であって,臨床群で両者の間に相関があるのは,臨床群の被導性(イニシアチブの欠如)が主たる要因であるのかもしれない。また,意識的には催眠に対して肯定的な報告をしていても,非(無)意識的には催眠に対して恐れを抱いていたり,抵抗があったりする者が多いことが知られている(福井・大浦, 2017)。病理性が高いか低いかにかかわらず,解離傾向が高い者は,そうした恐れや抵抗を解離しているため,質問紙では催眠に対する積極的な態度を報告したが,催眠に対する非意識的態度は否定的であったのかもしれない。

キーワード
催眠態度/催眠感受性/日常的解離


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