発表

3B-028

高齢者における老いの受容プロセスの検討

[責任発表者] 江上 智章:1
[連名発表者・登壇者] 橋本 久美:2
1:札幌ベルエポック美容専門学校, 2:札幌国際大学

 目 的
 本邦の高齢者人口の割合は2017年時点で27.7%であり(内閣府,2018),すでに超高齢社会を迎えている現状である。当然身体面では衰えを感じているものの,しかし一方で自分は老いているとを認知することは,別の問題である。高齢期は身体面だけでなく,家族や社会とのつながりの喪失など複合的に喪失体験を経験する時期(長谷川・賀集,1975)でも
ある。そうした自身の老いとともに生じる変化を心理的に受容することは,メンタルヘルスの健康維持や,転倒予防意識が高まる(川南他,2015)などの適応的な行動変容につながる可能性が示唆されている。
 高齢期に伴う様々な喪失体験は独立したものでなく,互いに関連すると考えられている。藤田(2015)では,高齢者の身体的機能低下と心理的要因の悪循環のモデルが示されてい
る。このモデルでは,身体機能低下を感じた高齢者はサポート機会を損失したり,自己効力感の低下から不安の増大によって抑うつ状態となることで,閉じこもりなどの活動性低下が生じ,さらなる身体機能低下が生じることとなる。老いの受容から,自己効力感の低下抑制やサポートを得ようとする行動の促進が生じ,上述した悪循環を防ぐかもしれない。
 江上・橋本(2017)の調査にて,老いの心理的受容(老いに対する態度)には,主観的幸福感や経済状況,ソーシャルサポートが影響することが示唆された。しかし,それらの要因がどのように関係して老いの受容が高まるのか明らかでない。そこで,本研究では高齢者における老いの受容にてどのようなプロセスを経ているのか検討することを目的とした。
 方 法
研究協力者 A自動車学校の高齢者講習の受講者を対象に質
問紙調査を行った。回答に不備が認められなかった男性76名(76.83±3.25歳),女性17名(76.65±2.89歳),計93名の回答を分析に用いた。
調査項目 
1.老いに対する態度:改訂PGCモラールスケール日本語版(古谷野, 1989)の下位尺度。老いの受容度の測定に使用。2.主観的幸福感尺度(伊藤・相良・池田・川浦,2003) 
3.ソーシャルサポート尺度(岩佐他,2007) 
4.経済状況の満足度:4件法(赤字で苦しい~ゆとりがあ
る)にて回答を求めた。 
 結 果
 老いに対する態度を目的変数とした共分散構造分析によるパス図を作成したところ,Figure 1に示すモデルが得られ,十分な適合度を示すことが確認された。老いに対する態度に対する標準化係数は,主観的幸福感が.316 ( p <.01),経済状況は.261 (p <.01),ソーシャルサポートが.240 (p <.05)であった。また,ソーシャルサポートから主観的幸福感,主観的幸福感から経済状況への有意なパスが認められ,標準化係数は順に.684 (p <.01),.465 (p <.01)だった。老いに対する態度への標準化総合効果は,主観的幸福感が.438,経済状況は.261,ソーシャルサポートが.540だった。
 考 察
 本研究では,健康な高齢者の老いの受容において,主観的幸福感,経済状況,ソーシャルサポートが直接的に影響しているとともに,ソーシャルサポートを起点として主観的幸福感,経済状況へと段階的に高まり老いの受容につながるというプロセスがあることが確認された。加えて,老いの受容においてソーシャルサポートが総合的に大きく影響することが示唆された。よって,老いの受容を促すためにはソーシャルサポートに関する働きかけが有効だと推測される。その方法として,サポートを得ている主観的な感覚を高めたり,サポートの利用可能性への気づきなどが考えられる。
 また,直接的な影響が大きい主観的幸福感は,認知的側面があることが示されており(Diener, Suh, Lucas, & Smith, 1999),日々の生活や出来事におけるポジティブな側面に着目するなどの認知面への働きかけにより,主観的幸福感が高まると考えられる。そして高齢期でも幸福感の維持や高まりを感じることにより,老いを肯定的に捉えて受容度が高まるのではないだろうか。そうしたポジティブ感情の高まりから,経済状況に対しても肯定的な認知的変化が生じ,退職などによる経済的喪失体験の受容度が高まるのかもしれない。
 本研究で示されたモデルでは,老いの受容におけるソーシャルサポートの重要性が示唆された。小林他(2011)では,同居者の有無に関わらず孤立した高齢者はサポートを得にくいことが示唆されている。今後は社会的孤立など他の要素を加えた,高齢者における老いの受容プロセスのさらなる検討が必要である。
 引用文献 
Diener, E., Suh, E. M., Lucas, R. E., & Smith, H. L.
 (1999). Subjective well-being:Three decades of
 progress. Psychological bulletin, 125, 276.
藤田幸司(2015).高齢者の自殺および自殺予防対策   
 老年社会科学,37,57-63. 

キーワード
老年心理学/受容/主観的幸福感


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