発表

3B-025

中国人留学生における学校ストレスと異文化適応ストレスの抑うつと不安への影響
ネガティブ気分制御期待感の調整効果

[責任発表者] 安 婷婷:1
[連名発表者・登壇者] 浜村 俊傑:2, 岸本 鹏子#:3, マーンズ ジャック#:4
1:筑波大学, 2:KDDI総合研究所, 3:南開大学, 4:California State University, Fullerton

問題と目的
 留学生は現地大学生に較べ,大学に適応していくと同時に,異文化に適応していかねばならないため,より多くのストレスを抱えている (Arthur, 2004)。西欧圏アジア人留学生を対象にした研究では,彼らは異文化適応などのストレスを抱えており,言語のバリア,人種差別,ソーシャルサポートの欠如などの問題を抱えていると報告されている(Yakunia, 2011)。現地大学生と較べ,中国人留学生はより抑うつや不安などのメンタルヘルスの問題を抱えている(Cheung, 2011; Wei et al., 2007)。このように,留学生であることは多くのストレスが伴い,抑うつと不安状態に陥るリスクが高い。そのため,彼らがストレスを抱えていても,抑うつと不安を緩和する要因を特定することが重要である。一つにnegative mood regulation expectancies (ネガティブ気分制御期待感,以降NMREと略す)が挙げられる。
 NMREは個人がネガティブ気分な気分に陥った際に,自身がどのくらいそのネガティブ気分を制御できると信じるかを表している(Catanzaro & Mearns, 1990)。NMREが抑うつや不安における緩和効果はすでに多くの研究において確認されている(Mearns, 1991; Mehta, 2006; Necef, 2014)。しかし,文化間を移動する中国人留学生において,NMREが同じような役割を果たすかは確認されていない。したがって,本研究はNMREが中国人留学生において学校ストレスと異文化適応ストレスが抑うつと不安への影響に調整効果を示すかどうかを明らかにすることを目的とした。

方法
調査対象 日本の大学に在学する中国人留学生527名(男性248名,女性273名)。年齢は18歳 から29歳 まで(mean = 23.29, SD = 2.48)であり,39.5%は学部生,48.4% は修士課程学生,12.1%は博士課程の学生であった。データ収集は中国のオンライン調査会社KuRunDataに依頼した。データの質を担保するためには,データの欠損のある回答や短い時間で完了した回答はデータ収集システムから自動的に除外された。
質問紙の構成 質問紙は以下の尺度の中国語版を使用した。
Negative Mood Regulation Scale (NMR-C) (Catanzaro & Mearns, 1990) ネガティブ気分制御期待感を測る尺度 この尺度はWang, Mearns, Yang, Han, & Catanzaro(2017)がNMRに基づいて翻訳・改定されており,32項目が含まれている。
University Stress Scale (USS) (Stallman, 2008) 大学ストレスを測る尺度 この尺度は著者チームがバックトランスレーションの手続きに基づき中国語版に翻訳したもので,21項目が含まれている。
Acculturative Stress Scale for International Students (ASSIS) (Zhang, Su, & Zhang, 2015)  異文化適応ストレスを測る尺度 この尺度はSandhu’s (1994) に基づき翻訳・改定された36項目の尺度である。
Self-Rating Depression Scale (SDS) (Zung, 1965) 抑うつの自己評定式尺度 中国語版は原版と同様に20項目が含まれている(Zhang et al., 2012)。
Self-Rating Anxiety Scale (SAS) (Zung, 1971) 不安の自己評定式尺度 中国語版は原版と同様に20項目が含まれている(Wu et al., 2005)。
手続き 研究協力者は調査会社から依頼を受け,研究協力に同意した後,インターネット上で上述の質問紙に回答した。

結果と考察
重回帰分析による調整効果の検討を行った結果,NMREは大学スレトスが抑うつと不安に与える影響において調整効果を示した同時に,NMREは異文化適応スレトスにおいても同様に調整効果を示した(Figure1,2)。NMREは大学スレトスと異文化適応ストレスが抑うつと不安に与える影響を緩和させることが明らかになった。すなわち,NMREが低い人より高い人の方が,大学ストレスと異文化適応ストレスが高くても,抑うつと不安になりにくい。ネガティブ気分を制御できると信じるかどうかによって,ストレスが抑うつと不安へどのくらい影響するかが異なる。ネガティブ気分を制御できると信じる中国人留学生の方がストレスの抑うつと不安への影響が緩和され,経験する抑うつと不安もより軽減されると言える。これらの結果は抑うつと不安におけるNMREの重要性(Mearns, 1991; Catanzaro et al., 2000; Kassel et al., 2006; Necef, 2014)を示す知見を補填するものとなった。また,留学生においてもNMREの調整効果が確認されることによって,個人が文化間を移動しても,個人が持っているNMREが失われることなくその役割を果たしていることが示唆された。

引用文献(一部省略)
Arthur, N. (2004). Counseling international students: Clients from around the world. New York: Kluwer Academic/Plenum.
Catanzaro, S. J., & Mearns, J. (1990). Measuring generalized expectancies for negative mood regulation: Initial scale development and implications. Journal of Personality Assessment, 54, 546-563.
Cheung, P. T. A. (2011). Depressive symptoms and help-seeking preferences among Chinese (including mainland China, Hong Kong, and Taiwan) international students. Dissertation Abstracts International Section A: Humanities and Social Sciences, 71, 3790.
Yakunina, E. S., Weigold, I. K., & McCarthy, A. S. (2011). Group counseling with international students: Practical, ethical, and cultural considerations. Journal of College Student Psychotherapy, 25, 67-78.

キーワード
中国人留学生/抑うつと不安/ネガティブ気分制御期待感


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