発表

3B-024

基本的信頼感と内的作業モデルが自我同一性の危機の顕在化に及ぼす影響

[責任発表者] 石川 理恵:1
[連名発表者・登壇者] 田副 真美:2, 吉田 沙蘭:3
1:東北大学, 2:ルーテル学院大学, 3:東北大学


目的
 青年期の心理的な問題の抱えやすさの一要因として,自我同一性の危機が影響を及ぼしていると考えられている(中谷・友野・佐藤,2011).自我同一性の形成には,それ以前の発達段階の発達課題の達成が影響を与えるが(Erikson,1980,西平訳,2011,p.96),その中でも自己や世界に対する根源的な信頼の態度である基本的信頼感は各発達段階の達成を支える重要な感覚である.基本的信頼感は,実際的な対人場面における自己や他者への信頼の感覚である内的作業モデルに影響を及ぼすと考えられる.そして,良好な対人関係を構築するために重要なこの内的作業モデルも青年の精神的健康度に大きな影響を及ぼし(大井,2004),自我同一性の形成においても影響を及ぼすと推察されるが,これらの概念の関係性を総合的に検討した研究はこれまで行われていない.そのため本研究では,基本的信頼感,内的作業モデル,自我同一性の感覚の関係性を検討するとともに,各変数が青年の精神的健康度にどのような影響を及ぼしているのかについて明らかにすることを目的とした.

方法
調査対象者
 都内の私立大学生1年生から4年生,大学院修士1年生の約280名を対象とした.分析対象者は224名であった. 男女の内訳は,男性54名(平均年齢19.93歳,SD=2.61),女性170名(平均年齢18.72歳,SD=1.18)であった.
調査時期
 2018年4月から5月にかけて調査を行った.
調査内容
 使用した尺度は,日本語版一般精神健康質問調査票(中川・大坊,1985),基本低信頼感尺度(谷,1998),一般他者版成人愛着スタイル尺度(中尾・加藤,2004),多次元自我同一性尺度(谷,2001)であった.分析は,各要因同士の関連や影響の方向性を検討するために共分散構造分析を行った.

結果
 共分散構造分析の結果から,基本的信頼感は内的作業モデルに直接的な影響を及ぼし,自我同一性には間接的な影響を及ぼしていた.また,内的作業モデルは自我同一性の感覚に直接的な影響を及ぼしていた.そして精神的健康度に対して,基本的信頼感からは直接的な影響と,内的作業モデル及び自我同一性を媒介した間接的な影響を及ぼしていた.また,内的作業モデルからは自我同一性を媒介した間接的な影響,自我同一性からは直接的な影響を及ぼしていることが明らかとなっ

た.

考察
 共分散構造分析の結果から,基本的信頼感は内的作業モデルに直接的な影響を及ぼしていることが明らかになった.よって,乳児期に形成される根源的信頼感が対人関係における自己・他者に対する信頼感に影響を及ぼすことが示唆された. 精神的健康度に対しては,基本的信頼感と自我同一性から直接的な影響が与えられていることが明らかとなった.つまり,青年の精神的健康度は自我同一性の危機の顕在化という側面だけでなく,根源的な信頼感の不安定さからも影響を受けていることが示唆された.また,内的作業モデルも自我同一性の感覚を媒介として精神的健康度に影響を及ぼしており,対人場面における自己・他者への信頼感も青年の精神的健康度を低めてしまう要因となっていると考えられた.
 以上のように,本研究では根源的な信頼感の欠如が対人場面で表面化する信頼感の不安定さにつながり,それが自我同一性の感覚の獲得の低さに影響を及ぼし,その自我同一性の感覚の低さと根源的信頼感の欠如の双方が青年の精神的健康度に影響を及ぼしていることが明らかとなった. この結果から,自我同一性の危機に対する基本的信頼感と内的作業モデルの重要性が示され,これらの信頼感が持てていない者にとって青年期が危機的な時期になっていることが示唆された.
 今後の課題として,基本的信頼感や内的作業モデルの変容を促進する要因を検討していくことが,青年期に危機感を感じている青年たちを支援する際の一助となるだろうと考えられる.また,基本的信頼感と内的作業モデルに強い関連性が見られた要因として各尺度の質問内容の影響も考えられ,この結果が両概念の関係性を正確に示すことが出来ていない可能性があるため,今後の検討事項としていきたい.

引用文献
中谷陽輔・友野隆成・佐藤豪(2011). 現代青年期において      アイデンティティ(自我同一性)の危機は顕在化する      のか. パーソナリティ研究, 20,2, 63-72.

キーワード
自我同一性の危機/基本的信頼感/内的作業モデル


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