発表

3A-035

部活が中学生を精神的に追い詰めるプロセスに関する事例研究
Bukatsuの文化心理学(5)

[責任発表者] 藤根 美穂:1
[連名発表者・登壇者] 尾見 康博:2
1:岩見沢市立総合病院, 2:山梨大学

【問題】
 部活は課外活動であるにもかかわらず,中学生や高校生の生活のありように多大な影響を与える。厳しい練習に耐え,勝利に向けて懸命にプレーし,共に喜び,共に涙するといった経験が,仲間との強い一体感を生むこともあれば,顧問や先輩による「厳しい指導」によって精神的につらい経験を強いられることもある。以下では,後者の典型的な例として,部活での経験がもとで不登校になったと考えられる男子の事例を取り上げ,部活という組織,および部活での指導のあり方について検討する。
【方法】
事例 中学時代に野球部に所属していた高校生男子X
手続き 第一著者が小児科医として担当したXのカルテ,およびXとその母親との間での面談中のやり取りのメモをもとに第二著者と共に論点を整理しながら時期の区分をし,それぞれの時期の特徴についてまとめた。
【結果】
<第一期:「厳しい指導」と部活への不適応> 小学生のときから野球をしていたXは,中学校でも野球部に入部したが,練習は厳しくなり,楽しかった野球が楽しくなくなってきた。厳しい指導には体罰も含まれており,「監督は手も足も出る人で「ばか」「死ね」もよく言っていた」。また,テストの点が悪いと「100周走れ」とも言われ,日曜日に1人で走ったこともあった。のちに母が監督に相談をした際,監督は,この100周走ることの意味について,「1日で走れとは言ってない,1年でそのくらいは走るだろうが。指導なのであわなければやめて下さい」と言ったという。
<第二期:部員の自死という衝撃> 中1の3月,野球部の主力メンバーでムードメーカーでもあった一学年上のYが自殺するという事件が起きた。また,ほぼ同時期にやはり一学年上のZが退部した。Xは心身の不調を訴え,事件の一週間後,医師の診察を受けることになった。本人は「かなり部活に行くのがしんどい。監督が厳しくてつらい」とも漏らしていた。XはYの自死を「すぐそばに死があるんだ」と感じ,「気持ち悪い」「こんなに簡単に死ねちゃうんだと思った」「身体は動かないのに頭がぐるぐる動いていた」という。そして,その思いを作文にして書いてもいた。当時を振り返り自分自身「そうとう病んでた」「闇が深い」と自認もしている。
 中2の5月,頭痛,嘔吐,腹痛の症状があるとのことで受診。「監督の手や足がでてくると腹痛が強くなる」と話していた。部員の自死のあと,監督の指導はゆるくなったということであったが,本人の症状は改善が見られなかった。
<第三期:不登校> 中2の2月時点では,頭痛が2日に1回の割合で生じ,保健室を使うことが増えた。スクールカウンセラーも利用するようになった。やはり野球部員である双子の兄は監督の厳しい指導をうまく受け流しており,周囲からは頑張っている兄と比較されるのもXにネガティブな影響を与えていたかもしれない。この時点で第一著者は起立性調節障害と診断した。昇圧剤などの一般的な起立性調節障害治療薬はあまり奏効しなかった。Xはこの頃「監督と担任が厳しい」と言っていたが,担任のバレー部顧問が野球部の監督と仲がよく,部活に対するスタンスが同じで,Xに「気持ちでやれるだろう」と言ったこともあるという。不登校になるほど精神的に追い込まれ,監督からは「合わなければやめて下さい」とまで母親が言われていても,本人も母親も野球部を辞められると思っていなかったし,実際辞められなかった。「辞めたいと言った瞬間が怖い」「野球部にいたいですと言わされると思った」という。
 3月には週に1,2回しか登校しなくなっていたが,5月の修学旅行を楽しみにもしていた。修学旅行自体は楽しめたが,6月に入るとまったく登校しなくなった。
<第四期:空手との出会いと高校生活への適応> 中3の夏頃から近所の空手教室に週に4回通うようになり,組み手で大会にも出場した。母親は「空手の先生は力の抜き方を教えてくれた。野球では力を入れるばかりでガチガチだった。先生として最高だった。」と話している。また,母親によれば,空手の先生はXを「早急に成果を求めようとしていて焦りやすい」「目標が非常に高い」と見ていた。野球部では早急に成果を求められ,過度に高い目標を持たされていたことの裏返しであると考えられる。野球以外の楽しみを手に入れ,Xは冬休み前には毎日1~2時間登校するようになった。
 高校進学後も,起立性調節障害が悪化することがあり,1,2時間目に登校できない日も多かった(5月〜6月)。ただ,中学とは異なり高校は起立性調節障害を理解してくれたという違いがあった。高2の1月には,ほぼ毎日通常通り登校できるまでになり,中学時代の不登校について自らの言葉で落ち着いて話せるようになった。
【考察】
 起立性調節障害の治療には適度な運動が欠かせないが,Xが所属していた野球部はXにとって適度とはいえず,むしろマイナスに働いた。また,兄と比べ監督の言葉をうまく受け流せないXは素直で敏感な子どもであり,こうした子どもほど苦しむことになるような環境を部活,そして学校が作っているとも言える。
 一途主義(尾見,2019)のもとでは,Xでなくとも退部することには非常に高いハードルがある。部活をやめることは進学にもマイナスになると考えられがちである(実際にそうであることもある)し,嫌ならやめればいいとは単純に言えない事情が部活にはある。しかし,しょせん課外活動に過ぎない部活に中学生がそこまで苦しめられるのは大問題であり,より良い課外活動のあり方についての制度設計は急務である。
※本研究はJSPS科研費 JP17K04347の助成を受けた。また岩見沢市立総合病院の倫理審査を受けた。

キーワード
部活/不登校/起立性調節障害


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