発表

3A-031

知的障がい者家族に対する親亡き後の準備に関する心理教育プログラムの実践
心理と司法の専門家による協働の試み

[責任発表者] 山田 哲子:1
1:立教大学

問題と目的
 わが国では,1960年代に知的障がいのある子どもの将来を悲観した親による無理心中や子どもを殺める事件が相次いで生じ(西村,2007),親が抱く「親亡き後の不安」の深刻さが社会に広く示された。限界まで知的障がいのある子どものケアを担おうとする親の傾向が強いわが国にとって,親亡き後の不安に対する支援は重要である。親亡き後の問題は,これまで指摘されてきた親子分離の困難さだけでなく,将来に対する準備やプランニングをしないあるいはできない状態が維持されることに起因する(山田,2018)。そこで山田(2018)は,親の主体性を刺激することを狙いに,「知的障がいのある子どもの将来の生活場所の選択」をテーマとした心理教育プログラムの開発・試行実践を行った。この研究は,心理面から知的障がい者家族支援のアウトリーチを行ったものだが,課題として心理面だけではない包括的な家族支援の必要性が挙げられた。そこで本研究は,心理と司法分野の専門家が協働するプログラムに修正し,その効果検討を目的とする。

方法
対象者 親の会が主催する講演会に参加した,知的障がいのある成人した子どものいる家族68名(父親8名,母親56名,その他4名, 平均年齢59.03歳)
調査時期 2018年9月
プログラムの内容 山田(2018)が作成した,当事者家族(1.親亡き後の知的障がいのある子どものケアはきょうだいに託すと決めた親,2.計画的に子どもの家庭外施設利用を決めた親,3.緊急に子どもを家庭外施設利用した親)に対するインタビュー調査から見出された心理的体験の提示,知的障害者施設職員に対するアンケート調査から見出された親亡き後の事例などで構成されたプログラム内容に,司法分野から身上監護と財産管理の二つの視点を加え,関連する法制度(成年後見,遺言信託など)の説明,さらに心理と司法の両側面から将来のために必要な準備の紹介などを行った。
プログラム実践者 臨床心理士の資格を持つ本研究者と,家庭裁判所事件や後見事件に多く携わる弁護士
データ収集 心理教育プログラムの事前事後にアンケート調査を行った。
質問項目 Q1知的障がいのある本人の将来について考える,Q2本人と将来について話す,Q3家族と将来について話す,Q4支援者(先生,施設職員,相談員など)と将来について話す,Q5保護者仲間と将来について話す,Q6将来に関する事柄の情報収集をする,Q7子どもの身辺自立を進める,Q8ヘルパー利用など子どもが親以外の人と過ごす時間を持つ,Q9ショートステイを利用する,の事柄に対し,事前アンケートでは現在どのくらい行っているか,事後アンケートではプログラムを受けてどのくらい実践したいと思ったかについて5件法にて尋ねた(1=全く行っていない・全く行いたくない,5=よく行っている・かなり行いたい)。

結果と考察
 事前事後の各項目の平均値間に差があるか,対応のあるt検定を行った結果,Q1「知的障がいのある本人の将来について考える」はt(57)=5.43, p<.01,Q3「家族と将来について話す」はt(56)=7.29, p<.01,Q4「支援者(先生,施設職員,相談員など)と将来について話す」はt(54)=9.07, p<.01,Q5「保護者仲間と将来について話す」はt(56)=6.71, p<.01,Q6「将来に関する事柄の情報収集をする」はt(56)=9.57, p<.01,Q7「子どもの身辺自立を進める」はt(57)=8.81, p<.01,Q8「ヘルパー利用など子どもが親以外の人と過ごす時間を持つ」はt(56)=4.30, p<.01となった。各項目の平均値(Table1)から,プログラム直後に参加者が将来の準備について動機づけを高めたことがわかる。しかし,Q2「本人と将来について話す」はt(52)=1.96, n.s.,Q9「ショートステイを利用する」はt(54)=1.41, n.s.であった。これは,障がい特性による限界やサービス利用のハードルの高さが影響したと思われる。

今後の展望
 本研究のサンプリングは「親亡き後をテーマとした講演会に自ら参加した親」であり,そもそもこのテーマに回避傾向が高い家族は参加をしていない可能性が推測される。また,効果検証として本研究では「将来の準備に対する動機づけ」という短期的な心理的側面を扱った。今後はプログラムの後,実際に将来の準備行動を行ったかなどの中長期的な効果に対して検討していくこと,統制群を設置しての効果検討などが望まれる。

主要引用文献
山田哲子(2018). 成人知的障がい者の「将来の生活場所の選択」に関する研究―健やかな在宅ケアおよび家庭外施設利用を目指す家族支援―. 風間書房

キーワード
家族/知的障害/心理教育


詳細検索