発表

3A-030

自己価値の潜在優位性と関連する安静時脳機能ネットワーク

[責任発表者] 西村 春輝:1
[連名発表者・登壇者] 伊里 綾子:1, 須原 哲也#:1, 山田 真希子#:1
1:量子科学技術研究開発機構

Yamada et al.(2013)は,健康な人々の多くは,平均よりも自己を価値があると評価することを明らかにし,これを優越の錯覚(superiority illusion)と呼び,反対に絶望感の高い者には優越の錯覚が生じにくいことを示した。この優越の錯覚は絶望感,安静時の線条体-前部帯状回の機能結合,および線条体ドパミンD2受容体結合能と負の相関関係が示されている(Yamada et al., 2013)。このように自己―他者の比較過程における自己価値の高さは抑うつの予防に役に立つ可能性が考えられるが,詳細なメカニズムは不明である。Yamada et al.(2013)では,内省可能な顕在的水準における自己価値の評価に留まっていたが,単に顕在的水準で自己価値が低いことよりも,内省不可能な潜在的水準で自己価値が高く,かつ顕在的水準で自己価値が低いこと,すなわち自己価値の潜在優位性がより抑うつの悪化と関連していることが知られている (Creemers et al., 2012)。それにもかかわらず,この自己価値の潜在優位性の背景にある神経基盤は明らかになっていない。先行研究では,抑うつの悪化や脆弱性には内側前頭前皮質(Medial Prefrontal Cortex: MPFC)や前部帯状回(Anterior Cingulate Cortex: ACC)のような内側領域の機能変容の関連が指摘されている(Hamilton et al., 2015; Nejad et al., 2019)が,それらの脳領域がどのように他の領域と機能的ネットワークを構成し,どのような心理学的機能と関わっているのかについては十分に明らかになってはない。そこで,本研究では特に脳機能ネットワークに注目し,自己価値の潜在優位性との関連性を検討した。
方法
参加者 精神疾患および神経疾患の既往歴のない健常者30名(平均年齢 = 23.73±4.69, 範囲 = 20-39) が本研究に参加した。
自己評価課題 ベック絶望感尺度(Tanaka et al., 1998)の測定および自己評価課題(顕在的水準および潜在的水準)をMRIの外で測定した。顕在的水準の自己評価課題についてはYamada et al. (2013)と同様の手続きを用いた。すなわちRosenberg(1965)を参考に,社会的に望ましい単語25語と望ましくない単語25語を選定し,これらの単語をコンピュータスクリーン上に1語ずつ呈示した。実験参加者の課題は,呈示された単語について自分が平均よりも上か下かを判断することであった(たとえば,「自分は『真面目』という性格特徴については平均と比較してどの程度であるか」)。回答は,Visual Analogue Scaleを用いて,0から100の範囲で平均を50として行なわれ,50からの距離を顕在的自己評価得点とした。得点が高いほど優越の錯覚傾向が強いことを意味する。潜在的水準の自己評価課題の測定には,社会的に望ましい単語(e.g., 有能)と望ましくない単語(e.g., 劣等)を使用した潜在連合テスト(IAT)を用いた。IATではGreenwald et al. (2003)を参考にD-scoreを算出した。D-scoreは,高いほど潜在的自己価値が高いことを意味する。顕在的自己評価得点とD-scoreをそれぞれ標準化し,さらに後者から前者を引いた値を潜在優位性得点とした。潜在優位性得点は高いほど顕在的自己評価よりも潜在的自己評価が優勢であることを意味する。
MRI画像取得 3TのMRI装置(GE 3.0-T Excite system)を使用した。機能画像の撮像中は7分間,画面の注視点を何も考えずに眺めるように教示した。
MRI画像解析 解析には,SPM12およびCONN-fMRI functional connectivity toolbox (ver.18)を用いた。最初の4スキャンを解析から除外し,default pipelineに沿って前処理をおこなった。Band-pass filterによって各ボクセルにおける低周波数帯域(0.009 Hz–0.1Hz)の信号の時系列データを抽出した。ROIとしてCONN network cortical atlas (Gordon et al., 2015)とstriatal connectivity atlas (Tziortzi et al., 2013)を利用した。striatal connectivity atlasは,線条体を3つの皮質への結合率に高さに基づいて分割したROI(感覚運動,辺縁系,実行系)を含んでいた。個人解析を行い,BOLD信号の時系列データを各ROIで平均化した値を用いて,ROI間の相関係数を算出した。さらに,相関係数をFisherのz変換し33×33の機能結合マトリックスを作成した。集団解析では,D-scoreと相関する機能結合を探索するため,ROI–to–ROI解析とグラフ理論解析を行なった。ROI–to–ROI解析では,各機能結合の値についてt検定を行い,FDR多重比較補正でp < .05を満たすものを有意な機能結合とした。グラフ理論解析では,各ROI間の機能結合の値の絶対値上位15%を閾値とし,2値化したマトリックスを作成し,閾値上のROIと機能結合をそれぞれ節点と辺とした。それらの節点と辺から,媒介中心性(betweenness centrality)を計算した。FDR多重比較補正でp < .05を満たすものを有意な媒介中心性とした。
結果と考察
潜在優位性得点と機能結合の関連を検討した。その結果, MPFCと感覚運動線条体およびMPFCと辺縁系線条体の機能結合が高いほど,潜在優位性得点が大きいことが示された。この結果は,顕在的水準における自己評価が高いほど背側線条体-ACCの機能結合が高いことを示したYamada et al. (2013)の結果と類似しており,顕在水準の自己価値の低さと潜在優位性に線条体が共通して関与している可能性が考えられる。
また,グラフ理論解析の結果,MPFCの媒介中心性が高いほど潜在優位性得点が高いことが示された。先行研究では抑うつの悪化がデフォルトモードネットワークやMPFCの機能変容に特徴付けられることが示されている(e.g., Nejad et al., 2019)が,本研究の結果,潜在優位性の大きさはMPFCを中心とした機能結合ネットワークが関連していることが示唆された。MPFCは自己参照的処理との関わりがしばしば指摘されており(Nejad et al., 2019),自己参照的処理が多くの領域と機能結合することが潜在優位性の強さに関与している可能性があるだろう。

キーワード
優越の錯覚/絶望感/機能結合


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