発表

3A-029

「親との別れ」からの心理的な経過に関する検討

[責任発表者] 髙橋 あかね:1
1:淑徳大学

 目 的
 我々の日常生活には,ストレスを引き起こす様々なライフイベントが存在する。その中でも,多くの人が生涯で経験する可能性が大きいものとして「別れ」がある。別れの対象や別れ方などは多岐にわたるが,家族,特に親との別れの体験は,経験した者にとっても影響の大きいものであり,これまでも様々な研究がされてきた。近年,日本の夫婦は3組に1組の割合で離婚に至ると言われており,厚生労働省(2013)によると,2013年度の総離婚件数のうち58.4%は,未成年の子どもがいる夫婦の離婚であったことを報告している。つまり,離婚全体の6割近くにおいて子どもが親の離婚を経験している。子どもにとって,親の離婚が要因となる転居や転校といった生活環境の変化は,住み慣れた家や地域,仲の良い友人を失うという現実的・物質的な喪失をもたらし,自己の価値を問い直すような重大な出来事となる(野口,2013)。
 一方で,藤田(2016)は,離婚による不安や悲しみなどを体験した上で,現実の受け入れ方を学び,自己効力感が育まれると自分に起きた出来事を肯定的に受容し,将来の夢や目標の形成や主体性の獲得につながっていくと考察し,苦難の多い人生を意味づけ収めてくれるようなナラティブを見いだすことの重要性を示唆している。これらの指摘を踏まえると,「大切な対象との別れの経験」を研究する際には,別れの否定的な側面だけでなく,肯定的な側面にも着目することが重要であると考えられる。そこで本研究では,現代の日本でも多くの人が経験する可能性のある「離婚による別れ」に着目し,その中でも「親との別れ」を取り上げ,親の離婚を経験した子どもの体験過程と時間的経過に伴って生じる心理的な反応について明らかにすることを目的とした。
 方 法
 本研究の対象者は,「親との別れ」を経験した20代の女性1名である。研究協力者が21歳で当時社会人であったときに,正式に両親が離婚することになると,母親と2人の生活が始まり,父親との別れを経験することになった。本対象者に対して,事前に準備したインタビューガイドを用いて約1時間の半構造化面接を行った。面接内容は全てICレコーダ―にて録音し,逐語化した後,グラウンデッド・セオリー・アプローチを参考に分析を行った。
 結 果
 生成された約500個の切片にラベル付けを行った後,カテゴリーに分類する作業を繰り返した。その結果,最終的に19個の大カテゴリーが生成された(表1)。
 考 察
 本対象者は,子どもの頃より「不仲な両親をみて予期する離婚」の可能性を抱いて長年生活していた。離婚による別れは,対象者が「家族間の仲介役を担いつつ母親へ離婚を示唆」したことも関連しており「両親の問題に巻き込まれた気持ちと家族として早く落ち着かせたい気持ちの間で生じる揺れ」が大きかったと考えられる。一方で,「離婚が現実になると思っていなかった驚き」や「故郷を失った寂しさ」があり,住居等の生活を優先するために,「自分のやりたいことを諦めてまで家計を支えていかねばならない重圧」で不安が生じていた。そこで,「社会人として新たな環境に適応しながら落ち着いていく」ために,主体的に物事を取り組むようになったと考えられる。さらに,社会人であることをメリットと捉え「いつでも父親(対象)に会いに行けるという期待」を持つことで,父親と別れても親子の関係性が途絶えたわけではないという意味付けを行っていた。
 また,「離婚後に両親の心身回復やストレスの減少が見られたことへの安堵感」が生じており,離婚に対する肯定的な感情を抱く反面,離婚によって人生の選択肢が狭められたと感じ「両親にも他者にも打ち明けられない家庭での葛藤」を抱えている。これまでは,「家族について考えるストレスから回避するための気晴らしという対処」をしていたが,本研究で離婚を語る過程を経て,「人に話すと理解できる言葉にならない自己の姿」を見つめる体験になったと考えられる。本対象者にとって「日常で振り返る機会のない親の離婚」を語るという経験は,「主体的に物事をこなしてなんとか乗り越えていくことが必要だという意識」や,「他者よりもストレス耐性があるという自負」,「思い描く理想の家庭像を確立」という自己成長を自覚するものになったと推察される。
 本研究結果として,「別れ」を他者に語るという行為が,その物語をどう人生に位置づけるのかという点において重要な要素となるのではないだろうか。

 引用文献
藤田博康(2016).親の離婚を経験した子どもたちのレジリエ ンス―離婚の悪影響の深刻化と回復プロセスに関する 「語り」の質的研究―家族心理学研究,30(1),1-16.
厚生労働省(2013).平成25年度人口動態統計の年間推計.
野口康彦(2013).特集 離婚の心理学と法的問題 親の離婚を 経験した子どもの心の発達―思春期年代を中心に 法と心 理,13(1),8-13.

詳細検索