発表

3A-028

甘えられない環境が解離に及ぼす影響
過剰適応に焦点を当てた分析

[責任発表者] 赤堀 梓:1
[連名発表者・登壇者] 田辺 肇:1
1:静岡大学

目 的 解離は虐待との関連が実証的に示されている(Putnam & Trickett,1997)。一方近年,明白な虐待が見られない解離性障害について論じられ(野間,2012),例えば家族の病気,嫁姑問題,介護,夫婦間葛藤(柴山,2014),貧困等での心の余裕のなさ(大河原,2015)などが注目されている。赤堀・田辺(2018)はそのような養育環境を「甘えられない環境」とし,解離との関連を確認した(ρ=.279, p<.001)。またそのような養育環境は,他者の表情や場の空気を読んで周囲に合わせる傾向(過剰同調性)に繋がる(柴山,2014)。赤堀・田辺(2018)では過剰同調性との関連も検討した。過剰同調性と類似の概念として過剰適応がある。過剰適応と過剰同調性では,周囲を気遣い期待に沿おうとする点については共通する部分であると考えられる。本研究では,甘えられない環境が解離にもたらす影響を過剰適応に焦点を当てて検討する。なお,過剰適応を本研究では石津(2006)の「環境からの要求や期待に個人が完全に近い形で従おうとすることであり,内的な欲求を無理に抑圧してでも,外的な期待や要求にこたえる努力を行うこと」とする。

方 法 講義時間内に集団一斉法による質問紙調査を行い,343名(平均年齢19.53歳,男性188名,女性153名,その他・未記入2名)から回答を得た。データのクリーニングを行い,分析対象者は319名(男性171名,女性148名,平均年齢19.54歳,SD=1.20)となった。
 質問紙は,表紙(調査についての説明),フェイスシート(年齢,自認する性),過剰同調性尺度(独自作成,10項目6件法),負情動・身体感覚否定経験認識尺度(大河原・猪飼・福泉,2013;甘えられない環境尺度の基準関連妥当性を検討するために用いた),日本語版解離性症状尺度(田辺・渡邉,2017;以下DSS),甘えられない環境尺度(独自作成,10項目6件法),過剰適応尺度(石津,2006)から構成されていた。

結 果 石津(2013)に従い,過剰適応尺度のうち,「人からよく思われたい欲求」「他者配慮」「期待に沿う努力」の合計(外的側面)と,「自己抑制」「自己不全感」の合計(内的側面)を用いて,得点を標準化したTwo Step法のクラスタ分析した結果,石津(2013)とおおむね同様の4クラスタが生成された。
 多重比較の結果(Table 1),DSS得点は過剰適応群が有意に高く,過剰同調性得点は過剰適応群と適応群で有意に得点が高く,甘えられない環境得点は過剰適応群と適応あきらめ群の得点が有意に高かった。

考 察 甘えられない環境得点は適応性の低い過剰適応群と適応あきらめ群で高く,これらの二群はともに内的側面が高い群であり,甘えられない環境が「自己不全感」と「自己抑制」に結びついていることが示唆される。一方で,解離は過剰適応群でのみ高かった。適応あきらめ群との違いは外的側面である「他者配慮」「期待に沿う努力」「人からよく思われたい欲求」が高い。解離性に繋がる特性として過剰に周囲の期待に沿おうとする傾向が示唆される。過剰に周囲の期待にあわせようとするために,否定的な感情や受け容れられない欲求が体験から排除される,あるいは逆に,解離傾向を持つ個人が,自身の否定的な感情や受け容れられない欲求を意識せずにすむことで,過剰に周囲の期待に応えようとする姿勢を維持することが出来るのかもしれない。そのような傾向が自己の全体性を損ない,病的解離性につながる場合もあるだろう。
 ただし,過剰適応の者が全て解離性をもつわけではない。その違いと関連する要因の検討は,今後の課題である。

文 献赤堀 梓・田辺 肇(2018).甘えられない環境が過剰同調性 及び解離に及ぼす影響 日本トラウマティック・ストレ ス学会第17回大会発表論文集, 108.
石津 憲一郎(2013).中学生の自己概念と過剰適応(2) 教育実践研究:富山大学人間発達科学研究実践総合セン ター紀要, 7, 1-5.
柴山 雅俊(2014).解離の構造 岩崎学術出版社.
田辺 肇・渡邉 亜由美(2017).日本語版 Dissociative  Symptom Scale (DSS)の作成 日本トラウマティック・ ストレス学会第16回大会発表論文集, 90.

※本研究は,筆頭著者の2017年度静岡大学人文社会科学部卒業論文で得られたデータの再分析である。

キーワード
解離/養育環境/過剰適応


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