発表

3A-027

いじめ被害体験の長期的影響からの回復と成長の弁別 
心的外傷後成長とレジリエンスの対比による検討

[責任発表者] 長田 真人:1
1:神戸大学

問題・目的
困難な体験や苦しみが後に良い方向に変わることは真新しくないが,近年,それを科学的に検討しようという動きの中で,PTG(Post Traumatic Growth:心的外傷後成長)が注目されている。PTGとは,危機的な出来事や困難な経験における精神的なもがきや戦いの結果生じるポジティブな心理的変容の体験である(Tedeschi & Calhoun,1996)。一方で,PTGと精神的健康との関連については疑問が示されており(Frazier et al.,2009),PTGは精神的健康に対して有意な影響を与えていないという報告もある(Helgeson et al.,2006)。いじめ研究においても,PTGといじめ被害体験からの否定的影響は併存し,PTGと自尊心は弱い正の相関が確認されており(長田,2015),いじめ被害体験からの回復と成長の概念的弁別においても疑問は残されている。そこで,本研究では,困難で脅威的な場面であるにもかかわらず,うまく適応する過程・能力・結果であるレジリエンス(Masten et al.,1990)に注目する。レジリエンスは,トラウマ体験をしたとしてもPTSDを発症しないレジリエントな特徴を持つとともに(Bensimon,2012),不適応な状態からの回復やその過程を示し(Bonanno,2004),PTGとの概念的な区別が曖昧であることが指摘されている(Tedeschi, Calhoun & Cann,2007)。本研究においては,精神的健康と正の関連を示すレジリエンスと精神的健康と結果が安定しないPTGを形成過程から比較検討することで,両概念の弁別性を考察することを目的とする。また,本研究においてはJoseph & Linley(2005)による有機体価値理論から検討を行う。有機体価値理論とは,外傷的事象によってこれまでの想定世界が混乱した際に,同化と調整によりその体験を適切に価値づけるモデルであり,特に調整によりPTGが促進されることが示されている(堀田・杉江,2013)。
方法
 一般大学生男女を対象とした質問紙調査を行い,249名(男162名,女87名)の回答を得た(有効回答率88.61%)。質問紙内容は以下の6点である。①小中学校時代のいじめ体験について(立場・内容・頻度・症状),②PTGI-SF-J(Taku et al,2007),③意味づけにおける同化と調整尺度(堀田・杉江,2013),④人生における目的尺度(中原,2008),⑤二次元レジリエンス尺度(平野,2010),⑥主観的幸福感尺度(島井,2004)。分析には,SPSSとAMOS(ver.21)を使用した。なお,本調査の実施に当たっては,責任発表者の所属大学院において,倫理審査委員会から承認を受けている(NO.368)。
結果
 いじめ被害経験のある194名(男125名,女69名)を対象に分析を行った。まず,相関分析の結果から,ほぼ先行研究と同様の相関を確認した(Table1)。その後,資質的レジリエンスの平均値を参考に,資質的レジリエンス低群・高群に分け,多母集団同時分析を行った(Figure1,2)。結果から,適当なモデルが得られた(χ2(20)=23.99(n.s),GFI=.97,AGFI=.91,CFI=.99,RMSEA=.03)。一方で,一対比較では,有意な結果が得られなかった。
考察
 結果から,資質的レジリエンス低群においては,同化が獲得的レジリエンスに影響を与えて主観的幸福感を導く過程と,調整がPTGに影響を与えて人生目的感を導く過程を弁別するモデルが示された。一方で,いじめ被害体験が意味づけを十分に説明できておらず,媒介変数の存在を検討するなど課題といえる。また,資質的レジリエンス高群においては,PTGが主観的幸福感や人生目的感に与える有意な影響が示されず,同化が獲得的レジリエンスに与える有意な影響も示されなかった。これは,資質的レジリエンスが高いものは,PTGの鍵となる精神的なもがきや葛藤を経験しにくいことや(Westephal & Bonanno,2007),PTGの内容がレジリエンスの高低により異なり(小田部他,2009),その中には行動を伴わない幻想的なPTGがあること(Zoellner & Marecker,2006) が影響していると考えられ,課題といえる。

キーワード
PTG(心的外傷後成長)/いじめ/レジリエンス


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