発表

3A-025

性暴力に関する非機能的信念を測定する新しい尺度:Acceptance of Modern Myth about Sexual Aggression Scale (AMMSA) 日本語版の開発(1)
-因子構造と標本分布の検討-

[責任発表者] 今北 哲平:1
[連名発表者・登壇者] 河村 優子:2, 最上 多美子#:3, 斎藤 梓#:4, 古賀 捷平#:5, 岡野 太郎#:6, ボーナー ゲルト#:7
1:鳥取生協病院, 2:とっとり被害者支援センター, 3:鳥取大学, 4:目白大学, 5:佐賀整肢学園からつ医療福祉センター好学舎, 6:京都西山高等学校, 7:ビーレフェルト大学

【問題と目的】
 性暴力の否認や被害の軽視,加害行為の正当化などをもたらす非機能的な信念は「レイプ神話」と呼ばれ(Bohner, 1998),性暴力予防などを目的とした多くの心理教育プログラムの主要なターゲットとなっている(Schewe, 2002)。レイプ神話を支持している人ほど性暴力や性犯罪の加害者になりやすく,被害者に二次被害を与えやすいことが先行研究で示されており(Pithers et al., 1988; Suarez & Gadalla, 2010),さらに周りの人のレイプ神話が高いと認知するほど,性暴力被害者は被害を開示しづらくなる(Paul et al., 2009)。
 本邦において性暴力予防等に関する教育や研究を促進していく上で,レイプ神話を適切に測定できる尺度が必要だが,レイプ神話を測定する従来の尺度は項目の侵襲性が高いことや,項目が時代に即していないことが問題点として指摘されている(Gerger et al., 2007)。
 そこで本研究では,項目の侵襲性を抑え,かつ現代的なレイプ神話を測定できる尺度であるAcceptance of Modern Myth about Sexual Aggression Scale (AMMSA; Gerger et al., 2007)を翻訳し,因子構造と得点分布を検討した。
【方法】
 対象者 大学の講義時間を利用して質問紙調査を実施した。最終的な分析対象者は中国地方および関東地方の大学生237名(男性26名,女性178名,不明33名,平均年齢19.7歳)で,所属学部は医学系や心理学系が主であった。なおCOSMINチェックリスト(Terwee et al., 2012)に基づくと,因子分析に必要なサンプルサイズは210名であった。
 調査項目
1) AMMSA日本語版(暫定版):30項目1因子で性暴力に関する非機能的信念を測定する尺度である。翻訳の手続きは,まず著者への翻訳許可を得て順翻訳し,その後バックトランスレーション,認知デブリーフィングを行なうなど,尺度翻訳のガイドライン(稲田, 2015)に従った。項目には, “独身女性が自分の部屋に独身男性を誘う場合,女性はセックスをしてもまんざら嫌ではないことを表している” や, “職場でのセクハラに関する議論によって,悪気のない言動でも「ハラスメント」として誤解されることが多くなった” などがあり,どの程度同意できるかを7件法(1:全くそう思わない ~ 7:とてもそう思う)で回答する。得点が高いほど性暴力に関する非機能的信念が強いことを表す。
2) 基本属性
 ※上記以外の尺度にも回答を求めたが,本発表の分析に使用していないため省略する。
 分析手続き はじめに原版と同じ因子構造を想定した確証的因子分析を実施することとした。基準を満たすモデル適合度と因子負荷量が得られなかった場合は,探索的因子分析を実施し,因子負荷量が.35未満であるか,複数の因子に.30以上の負荷が認められる項目を除外して再度確証的因子分析を実施することとした。その後,α係数と標本分布を算出した。
 倫理的配慮 回答によってトラウマの喚起や気分の不調を誘発する可能性も考えられたため,調査実施機関において性暴力被害者支援機関の紹介や,精神的支援の提供ができる態勢を整えた。本研究は,鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を得て実施された。
【結果】
 因子構造 原版と同じ1因子を想定して確証的因子分析を実施したところ,基準を満たす結果が得られなかった。続いて対角SMC平行分析にて6因子,MAPにて2因子が示唆されたため,2因子から6因子を仮定した探索的因子分析を実施した。最も良好な適合度が示されたのは6因子解であったが,解釈可能性の観点から4因子解が妥当と判断し,基準を満たさなかった8項目を除外して再度確証的因子分析を実施した(CFI = .824, RMSEA = .069)。 “女性は控えめなふりをするが,セックスをしたくないという意味ではない” などから構成されるFactor 1は「ジェンダー・ステレオタイプに基づく思い込み」, “「夫婦間レイプ」を規定する場合,夫婦間の通常の性交渉と夫婦間のレイプとの間に明確な違いはない” などから構成されるFactor 2は「性暴力問題の否認」, “職場でのセクハラに関する議論によって,悪気のない言動でも「ハラスメント」として誤解されることが多くなった” などから構成されるFactor 3は「被害者の主張の軽視」, “現代においては,本当に女性に性暴力を犯した男性は公正に罰せられる” などから構成されるFactor 4は「被害者を取り巻く社会的状況の誤解」と命名した。α係数は合計得点が.86,Factor 1が.78,Factor 2が.78,Factor 3が.62,Factor 4が.65であった。探索的因子分析の結果をTable 1に示した。
 標本分布 歪度は-0.394,尖度は0.798であり,Kolmogoroff - Smirnov検定では有意でない結果が得られた(p = .542)。
【考察】
 AMMSA日本語版は4因子22項目であることが示唆された。AMMSAは原版のドイツ語版と英語版に加え,スペイン語版やギリシャ語版も開発されているが,いずれも30項目1因子構造が確認されている。
 性暴力を取り巻く社会的状況の違いが,AMMSA日本語版への回答傾向に影響を与えた可能性はある。例えば,日本はOECD加盟国で唯一,職場におけるセクシュアルハラスメントを禁止する法律がない国であり(The World Bank, 2018),他国と比べて性暴力への問題意識が低いことが示唆されている(Kamimura et al., 2016)。
 今後は男女比の偏りのないサンプルを対象にしたり,項目の表現を改善したりして内的整合性や因子構造を再検討していく必要がある。

キーワード
レイプ神話/性暴力/セクシュアルハラスメント


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