発表

3A-022

心理カウンセラー研修生の心理療法理論の志向性に関する考察
心理療法理論の志向性尺度の開発に向けて

[責任発表者] 中尾 元:1
1:追手門学院大学

はじめに
心理療法家は各々が心理療法の流派の理論(therapeutic orientation)を持っている。一方で,ことにトレーニングを受けている身である研修生は,研修生自身がクライエントの立場として(ロール・プレイであれ)心理カウンセリングの過程に入り,カウンセリングで生じる関係性の変化の型(dynamics)等を経験的に学ぶことが多い。ここであがってくる問いは,研修生が自身が心理療法家として依拠する流派の理論と,クライエントとしてどの流派のカウンセリングを受けたいかとで違いが生じる場合,それが何を意味するかである(cf. Buckman & Barker, 2010; Coan 1987) 。この流派の理論の違いに関する問いは,カウンセラー教育の中では探索が推奨されるが,研究としてほとんど検討されてこなかった。本研究は,心理療法理論の志向性尺度の開発に向け,この選択する流派の理論の違いに関して予備的調査として検討を行った。

方法
試作的に準備された「心理療法理論の志向性尺度」を用いて,アメリカ合衆国の都市部の臨床心理学の研修生25名(アメリカ心理学会に認定された,PhD及びPsyD臨床心理プログラムの大学院生)に質問紙調査及びフォローアップの面接調査を行った。分析の一部に,Consensual Qualitative Research (CQR; Hill, 2012) を用いた。

結果
主に次の2つの知見が得られた。第一は,臨床家として選択する流派の理論とクライエントとして選択する流派の理論とで違いがある際,研修生が自分自身についての言及(self-referential statement)をすることであった。第二の知見は,そのような違いに関して言及をしている場合,臨床家として必要となることと他者が必要としていることの違いに関する意識や,またそれに関連する逆転移についても言及がなされることであった。

考察
これらの知見から,臨床家として選択する流派の理論とクライエントとして選択する流派の理論との違いは,第一に自己意識に何らかの関連を持つこと,第二に自らが必要としているものが何であるかに関する意識と関連をしていることが検討された。同時に,転移や逆転位についてのさらなる考察が必要であることも明らかとなった。またカウンセラー教育(例:Rønnestad & Skovholt, 2003)の観点からは,ロール・プレイでの場面も踏まえ,実習生がカウンセラーとクライエントの双方の立場や,それぞれ異なった文脈に立つことの意味が検討された。

実践への示唆
上記の知見で見られたように,選択する流派の理論の違いを考えることは自己意識を高める機会になるとも考えられる点で,実習生や心理療法家自身が自らの臨床の枠組みに対して見識を深める機会になるとも考えられる。とりわけ,臨床家がクライエントの立場を実際に経験することは,職業上重要になる自己意識の発達とも関連することが言われている(MacDevitt, 1987)。この観点で,選択する流派の理論の違いについて考えを持つことは,職業トレーニング(PD: Professonal Development)のために有効とも考えられる。

今後の課題
今回の検討を踏まえ,心理療法理論の志向性尺度の開発が目指される。同時に,さらなる研究の課題として,自己意識と関連して,自己に関する各流派での理論上のアプローチの違いの検討が求められる。また,研修生自身の外向性・内向性との関連の検討や,臨床の流派の教育スタイル(例:一子相伝的に一つの流派に沈潜させるタイプか,数多くの流派を学ばせるタイプか等)との関連の検討が望まれる。

謝辞
アメリカの心理療法のトレーニングの様々な実相や文化的な要因を踏まえた検討について,Mark E. Koltko-Rivera博士にコメントをいただきました。記して感謝いたします。

引用文献
・Buckman, J. R., & Barker, C. (2010). Therapeutic orientation preferences in trainee clinical psychologists: Personality or training? Psychotherapy Research, 20(3), 247-258.
・Coan, W. E. (1987). Theoretical Orientation in Psychology and the Traditions of Freud , Jung , and Adler. Professional Psychology: Research and Practice, 18 (2), 134-139.
・Hill, C. E. (Ed.) (2012). Consensual qualitative research: A practical resource for investigating social science phenomena. Washington DC: American Psychological Association.
・MacDevitt, J. W. (1987). Therapists’ personal therapy and professional self-awareness. Psychotherapy, 24 (4), 693-703.
・Rønnestad, M. H. & Skovholt,T. M (2003). The journey of the counselor and therapist: Research findings and perspectives on professional development. Journal of Career Development, 30, 5-44.

キーワード
心理療法/理論/カウンセラー教育


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