発表

2D-035

会話にみる認知症高齢者との「なじみの関係」の構成

[責任発表者] 田崎 みどり:1
1:立命館大学

 「なじみの関係」とは室伏が提示した認知症高齢者ケアの原則の一つであり,「なじみの関係」の構成によって問題行動の解消やQOLの向上,スムースなケアの提供等の意義があるとされている(室伏,1998)。看護・介護の現場においては現在も「なじみの関係」は重視されており,認知症高齢者へアプローチする際の第一歩と捉えられている。しかし,これまで心理学領域では注目されてこなかった。地域における認知症高齢者支援への貢献が求められる現在,「なじみの関係」を心理学的な見地から検討することは有意義と考えられる。
 「なじみの関係」の構成は「はじめまして」から「お久しぶりでございます」といった挨拶の変化で把握できるとされている(室伏,1998)。そこで本研究では,認知症高齢者(以下,事例)との会話の実践を用い,事例の発話に注目して「なじみの関係」の構成プロセスを検討することを目的とする。なお,「なじみの関係」とは日常語であり,室伏自身も「なじみの関係」,「なじみの良い人間関係」など,さまざまな表現を用いている(室伏,1998)。そのため,本研究ではこれらを総称する語として「なじみの関係」を用いる。

方法
事例:A(85歳・女性) 夫死去後のX-4年頃,物忘れ等が出現。独居生活困難となり長女家族と同居。X-2年に脳梗塞を発症し認知症の症状も悪化。X年時点の介護度は要介護4であり,Y医院のデイケアを週6回利用。改訂版長谷川式簡易知能検査(X年10月:6点,X+1年5月:16点,X+1年12月:11点)より,中等度以上の認知症と判断される。デイケアでは孤立化(レクリェーションに参加しない等,集団から外れること)と帰宅願望が問題とされていた。

デイケアのフィールドワークにおける会話の実践 フィールドワークにおける会話実践の記述をもとに,関係性の変化プロセスに注目して検討する。フィールドワークはX年12月~X+1年11月までY医院のデイケアにおいて実施した(計21回,時間14:00~16:30)。会話は,Aが一人の時にAの居る場で実施した。記録はフィールドワーク終了後6時間以内に作成したフィールドノーツをもとに作成し,録音等の媒体は用いていない。なお,会話内容の一部はプライバシー保護のため改変している。X年当時,発表者(以下B)は修士課程の大学院生であった。デイケア管理者は認知症を有する利用者へのリハビリテーション的な支援を求めており,Bはフィールドになじみながら利用者との援助的な会話を試みていた。なお会話の実践は,会話を続けることを第一目的とした方法で実施した(田崎,2016)。本事例の発表については,X+1年10月~11月にデイケア管理者及び長女,Aにそれぞれ説明を実施し同意を得た。なお,本研究に関する利益相反はない。

結果 Aとの全21回の会話の実践は,1期(X年12月~X+1年5月:1~11回目),2期(X+1年5月~8月:12~16回目),3期(X+1年9月~11月:17~21回目)からなる。1期はBの挨拶から始まることが多かった。デイケア終了時までAのBへの認知が知らない人のままの回,Bと話した後にAより「…あんたはどっかで会うたごたるね?」「学生やったかね?」のようにBを話したことのある学生と捉え直す回が3回あった。2期では,顔を合わせた瞬間から「あら,久しぶりやったね」のように,Bを知人とみなす発話がみられた。Aからほぼ毎回Bを学生とみなした質問がなされ,AはBのことを,話をしたことのある学生と認知していることが窺われた。しかし,顔を合わせた際にはBを学生と認知していたが,会話を続ける中でBを知らない人と捉えることが1回あった。3期では,「あー,来んさった」のように,顔を合わせた時からBを知人とみなす発話が毎回みられた。デイケアスタッフがBについて「この人,誰?」とAに質問した際には,「よう来てくれらすけど,誰かは知らん」(18回目),「お友達になってもらっとっとー」(21回目)と答えていた。

考察 AのBへの認知は大きく(a)初めて会った人,(b)話をしたことがある学生,(c)よく知っている人,の3種類に分けることができた。本事例では(b)及び(c)が「なじみの関係」であると捉えられ,2週間に1回という頻度であっても「なじみの関係」の構成は可能であり,回を重ねるにつれ,よりなじみの程度は深まる可能性があると考えられた。
 室伏(1999)は挨拶の変化に注目しているが,本事例では顔を合わせた時の挨拶だけでなく,会話を続ける中でAのBへの認知が「なじみの関係」へ変化したり,顔を合わせた際には「なじみの関係」として会話が始まっていても,会話途中でAがBを知らない人と捉えることもあった。
 以上より,認知症高齢者との「なじみの関係」は会話を続ける中で構成されるが,その関係性は変化する可能性があることが示された。「なじみの関係」は認知症高齢者へアプローチする際の第一歩と捉えられる傾向にあるが,最初の一歩だけでなく「なじみの関係」を維持していくためのアプローチも必要であると考えられた。

今後の課題 本研究は一事例の実践に基づくものであるが,認知症高齢者の「なじみの関係」を心理学的に検討する意義の一端を示すことができた。今後の課題としては,「なじみの関係」を構成する具体的な方法や「なじみの関係」の構成が認知症高齢者へ与える影響に関する検討があげられる。

引用文献
室伏君士(1998). 痴呆老人への対応と介護 金剛出版
田崎みどり(2016). 会話をリハビリテーションにするために 認知症高齢者との会話から 臨床心理学,16(5),571-575.

キーワード
会話/認知症高齢者/なじみの関係


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