発表

2D-034

成人期ASDを対象とした認知機能改善の試み

[責任発表者] 中坪 太久郎:1
[連名発表者・登壇者] 稲本 淳子#:2, 常岡 俊昭#:2, 横井 英樹#:2, 三村 將#:3, 加藤 進昌#:2
1:淑徳大学, 2:昭和大学, 3:慶應義塾大学

問題と目的
 近年,「大人の発達障害」については,学問的・臨床的な場面だけでなく,テレビや雑誌,ネットニュースなど,さまざまな場面で話題になることが増えている。特に家庭や学校,職場で,当事者とどのように付き合うかといった問題は,関係者にとっては大きな関心事であり,対応の方法や工夫についての情報が求められているといえる。Autism spectrum disorder (以下ASD)の特徴のひとつである社会性やコミュニケーションの問題については,さまざまな分野での研究が進められているが,情報処理の特徴がそれらの症状のベースになっている可能性もあり,岩波ら(2013)は,発達障害にみられるコミュニケーション上の症状について,対人場面における認知障害である可能性を指摘している。このような状況をふまえて,これまでに発表者らは,成人期ASDの認知機能の特徴に関する検討を行った。その結果,認知機能の問題が広く知られている統合失調症群ほどではないものの,健常研究協力者との比較においては全般的に低い課題成績が示されており,情報処理機能の向上を目指した何らかの臨床的支援が必要となることについて言及した。これを受けて,今回,ASDの認知機能の向上を目的とした「認知機能改善プログラム」を実施した。本研究の目的は,ASD患者を対象とした認知機能改善プログラムの効果について,少数例の予備的な検討を行うことである。
方法
 対象は,ASDの診断を受けており,研究の趣旨について同意した研究協力者8名(うち女性1名)である。研究協力者の平均年齢は27.75歳(±5.73),平均教育年数は14.75年(±2.66)であった。研究協力者は①事前評価,②プログラム参加,③事後評価,のスケジュールに参加をした。評価として最初に,日本語版自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient: AQ),知的機能の簡易評価(Japanese Adult Reading Test: JART)を行った。事前・事後評価については,Japanese Verbal Learning Test(JVLT)(Matsui, Yuuki, Kato, & Kurachi,2006),物語記憶,数唱,ウィスコンシンカード分類検査(Wisconsin Card Sorting Test : WCST),心の理論課題(Theory of Mind : TOM),言語流暢性検査(Verbal Fluency Task: VFT),Trail Making Test A(TMT-A),Trail Making Test B(TMT-B),Continuous Performance Test(CPT)を実施した。また,プログラムについては,週1回,50分×12回(約3ヶ月)で,常時2〜4人のグループで実施を行った。プログラム内容については,Medalia ら(2002)などの統合失調症患者を対象とした支援プログラム手続きを援用し,認知機能の向上とスキルの日常生活への般化を目指した。なお,結果の分析については,事前評価と事後評価の検査得点の差について統計解析を行った。
結果
 各検査課題のプログラム前後の得点を表1に示す。Wilcoxonの順位和検定を用いて分析を行った結果,順唱のみが前後で有意な差が確認された(z = 2.232, p<.05)。
考察
 今回,ASD患者の認知機能全般の向上を目的としたプログラムの効果について,少数例の予備的検討を行った結果,統計的に有意な向上が確認された領域は一部であった。今後,研究協力者を増やすことによってさらに詳細な検討を行う必要があるが,プログラムの前後で一定の変化が見られた領域もあり,ASD患者の情報処理機能向上を目的とした支援については,適切な方法を用いることによって有効に働く可能性があると考えられる。例えば,単語記憶課題であるJVLTのSemantic Clustering Rate(SCR: まとまりごとに覚えるという体制化の指標)については,全体の平均で8.75の上昇が見られているが,実施後の平均値についてはばらつきが大きくなっている。このことは,個人によって記憶の体制化をうまく使えている者とそうでない者がいることを反映していると考えられる。このような場合には,グループによるプログラムの中で,個別の対応をうまく組み込んでいくといった,課題遂行時の方略を習得できるような支援が重要になってくると考えられる。今後は,ASDの特性に応じた関わりについても含めた支援方法を検討していく必要があるだろう。
引用文献
岩波明・橋本龍一郎・山田貴志・谷将之(2013).広汎性発達障害の認知障害 臨床精神医学42(12),1489-1496
Matsui, M., Yuuki, H., Kato, K., & Kurachi, M. (2006). Impairment of memory organization in patients with schizophrenia or schizotypal disorder. Journal of the International Neuropsychological Society, 12(5), 750–754.
Medalia, A., Revhim, N., & Herlands, T. (2002) Remediation of cognitive deficits in psychiatric patients. New York: Oxford University Press.
(メダリア,A.中込和幸,最上多美子(監訳)(2008).精神疾患における認知機能障害の矯正法−臨床家マニュアル−.星和書店)

キーワード
ASD/認知機能


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