発表

2D-030

メタ認知的対処方略尺度の開発

[責任発表者] 西口 雄基:1
[連名発表者・登壇者] 石川 亮太郎:2, 石垣 琢麿:1
1:東京大学, 2:大正大学

目的
認知のバイアスへの気づきを促すメタ認知トレーニング(Metacognitive Training: MCT)は,統合失調症における妄想や妄想的観念の修正において効果が期待されているトレーニングである。しかしながら,既存の質問紙尺度では,MCTによるメタ認知の変容を適切にとらえることが難しい。妄想的観念を計測する尺度ではメタ認知能力の変容は間接的にしか測定できない。また,既存のメタ認知を計測することを目的とした尺度についても,教育・学習場面などでのメタ認知的方略の測定を主な目的としたものが多く,MCTによるメタ認知的対処の能力の変化を計測することに適したものは今のところ存在しない。そこで,本研究では,より直接的にメタ認知能力を計測し,適切にMCTの効果を測定することができる新しい尺度,メタ認知的対処方略尺度の開発を目的とした。

方法
項目の収集
メタ認知的対処方略尺度の項目の候補として,成人用メタ認知尺度やMetacognitive Awareness Questionnaireなどの尺度項目を参考に,43項目を選定した。これらの項目は自分のメタ認知に対する意識を測定するものであり,得点が高いほど自らのメタ認知的な対処方略を強く意識している,問題解決にメタ認知的な対処方略をよく利用しているということになる。
質問紙尺度
メタ認知的対処方略尺度の他,質問紙尺度についても回答を収集し,メタ認知的対処方略尺度得点との相関を分析した。
抑うつ傾向の評価尺度であるPHQ-9, 不安の評価尺度であるGAD-7,パラノイア尺度(PS), サイコーシスの認知バイアス尺度であるCBQp,適応的・不適応なコーピングの評価尺度であるMAX, 脱中心化・反芻の測定尺度であるEQ,それぞれの日本語版を用いて調査を実施した。
調査
調査会社に登録していている20歳から69歳までの成人男女,300人(平均年齢44.6歳,SD = 14.1; 男性150名,女性150名)を対象に,インターネット調査を行った。

結果
因子分析
最尤法,Promax回転を用いた因子分析を行った結果,「方略の柔軟性」,「脱中心化と自省」,「他者との意見交換」,「視点取得」の4因子が抽出された。因子負荷量の低い項目を削除した結果,最終的に26項目が残った。それぞれの因子に基づいて下位尺度を構成し,メタ認知的対処方略尺度は4つの
下位尺度からなる尺度となった(表)。
他尺度との相関 
メタ認知的対処方略尺度それぞれの下位尺度とその他の質問紙尺度得点の相関を分析した結果,概ねすべての下位尺度がPHQ-9などの不適応的な尺度得点と負の相関を持ち,MAXにおける適応的コーピング得点などの適応的な尺度得点と正の相関を持つことが示された。また,一部の下位尺度についてはパラノイア尺度との負の相関が見られた。

考察
本研究では,メタ認知能力の変化を計測するための尺度としてメタ認知的対処方略尺度の開発を試みた。結果として作成された尺度は,適応的なコーピング尺度と正の相関を示した上,PSとも負の相関を示すものであった。これは,メタ認知的対処方略尺度が適応的な対処方略について計測していることを示している。また,メタ認知的対処方略尺度の得点が高いほど妄想的な信念が低減することも示唆している。また,本尺度は主に臨床群を対象としたMCTの効果測定を目的として作成されたものだが,健常群を対象とした調査でもこのような結果が見られたことは,メタ認知的対処方略尺度が健常群における精神的適応を評価する場合にも役立つ可能性があることを示唆している。
今後の研究において,メタ認知的対処方略尺度の得点が高い個人が,メタ認知的な対処方略を実際に利用しているか,課題を用いて検証することができれば本尺度の妥当性はより高まると考えられる。また,MCTの効果測定に用いるためには,MCTの実施前後で尺度得点がどのように変化するか検証する必要もあるだろう。このように,今後も引き続き妥当性の検証を続けていく必要はあるものの,メタ認知的対処方略尺度は問題解決場面でのメタ認知的な対処方略を評価し,MCTの効果を測定するツールとして十分に役立つものであると考えられる。

キーワード
メタ認知/コーピング/妄想的観念


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