発表

2D-028

人はいつから注射が怖くなるのか?

[責任発表者] 波光 涼風:1
[連名発表者・登壇者] 神原 広平:1, 尾形 明子:1
1:広島大学

 目 的
 採血や予防接種など,注射処置は侵襲的な医療行為の1つであり,多くの人は問題なく注射処置を受けられる。しかし,大きな不安や恐怖を感じている人もおり,このような注射処置に対する過剰な不安や恐怖を注射恐怖という(Mclenon et al., 2018)。注射恐怖は注射処置に関するネガティブな体験をすること(直接条件づけ),他者が注射に関するネガティブな体験をしているところをみること(代理学習),注射処置に関するネガティブな情報を見聞きすること(ネガティブな情報伝達)で発症する(Rachman, 1977)。また,子どもだけでなく青年の20-50%が注射恐怖であるという知見もある(Mclenon et al., 2018)。過剰な恐怖や不安によって必要な医療処置を回避することで,最悪の場合,疾病を悪化させ死に至る(Olatunji et al., 2010)。多くの子どもに注射恐怖が認められる背景には,注射処置の機会が多く恐怖を獲得しやすい時期であるからといえる。また,特定の恐怖症を小児期に発症した場合,その恐怖が成人期まで持続すると寛解しないことが示唆されている(APA, 2013)。注射処置は,小児期に恐怖体験として経験しやすいことを踏まえると,小児期に獲得された注射恐怖は成人期まで寛解せず悪化する可能性が推測される。しかし,これまでの研究は横断調査によるもので,実際に小児期に獲得した注射恐怖が維持されているのかは検討されていない。また,小児期に恐怖獲得しやすいことは明らかにされているものの,恐怖獲得経路別に経験しやすい時期が異なるのかは検討されていない。過去から現在までの注射恐怖が関連しており,獲得経路別に経験しやすい時期が異なることを明らかにすることで,注射処置時に対策を講じることが可能になる。そこで,大学生を対象に回顧法によって,過去と現在の注射恐怖の関連を明らかにすること,注射に関するネガティブな経験の時期を検討することを目的とする。
 方 法
分析対象 大学生419名(男性200名,女性217名,不明2名,平均年齢20.00歳,SD=1.39)。
質問項目 主観報告による注射恐怖の有無:小学校卒業時点で注射が怖かったか,いま現在注射が怖いかを2件法で尋ねた。いま現在注射が怖いと答えたものを注射恐怖ありとした。獲得経路別の注射恐怖:Ollendick & King(1991)を参考に,直接条件づけ,代理学習,ネガティブな情報伝達に関する注射恐怖獲得エピソードの自由記述を作成した。1)注射に関するネガティブな経験の有無,2)経験時期,3)その経験によって,当時注射が怖くなったか,4)その経験によって,現在も注射が怖いかの4点について,それぞれの獲得経路別に尋ねた。フェイスシート:性別,年齢について回答を求めた。
手続き 調査は大学の講義を利用した調査,縁故法によって実施した。本研究は,広島大学教育学研究科倫理審査委員会の承認を得たうえで実施された。
 結 果
 注射恐怖の割合は,30.75%であった。過去の注射恐怖と現在の注射恐怖の関連を検討するためにカイ2乗検定を行ったところ,有意な関連が見られた(χ2(1, N=413)=135.73,p<.001)。残差分析の結果,小学校卒業時点で怖くなかった人は,現在でも怖くなく(p<.001),小学校卒業時点で怖かった人は,現在も怖い人(p<.001)が有意に多かった。
 次に,獲得経路別の経験時期についてTable 1に示す。直接条件づけは,未就学児での経験率が最も高く,次いで中学生,小学校低学年であった。代理学習については,小学校卒業までの時点で経験率が78%を超えていた。ネガティブな情報伝達は,中高生の時点での経験率が他の時期に比べて多かった。
 考 察
 本調査の結果,注射恐怖の割合は30.75%であり,先行研究と同様の結果が得られた。また,小学校卒業時点で注射が怖かった人の多くは,現在でも注射が怖いままであった。このことから,小児期に獲得した注射恐怖は成人期においても維持されている可能性が示唆された。Mowrer(1951)によると,恐怖は回避につながり,回避することでさらに恐怖が高まり,また回避が生じて,恐怖が維持される。そのため,小児期に獲得した恐怖によって回避が生じ,さらに恐怖を高めることで寛解せず,成人期まで維持されている可能性が推察される。また,獲得経路ごとに経験しやすい時期が異なっていた。直接条件づけは,小学校低学年までと中学生で多かった。これは予防接種スケジュールと重なる時期であるため,予防接種が恐怖獲得の機会になりやすいと推察される。また,代理学習は,病院などで同年代や妹弟の注射処置を観察すること,学校での集団予防接種の機会が多いため,小学校までの時点で経験しやすいと考えられる。一方で,ネガティブな情報伝達については,中高生に多く,情報社会の発展によって様々な情報に触れる機会が多いため,恐怖獲得機会になりやすいと考えられる。本研究の結果より,大学生を対象とした回顧法による調査では,小学校卒業時点での注射恐怖が大学生時点においても維持していることが示唆された。

キーワード
注射恐怖/大学生/回顧法


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