発表

2D-027

虐待的養育環境と愛着スタイルが自閉症スペクトラム障害の判別に及ぼす影響

[責任発表者] 松尾 和弥:1,2
[連名発表者・登壇者] 大浦 真一:3,4, 福井 義一:3
1:甲南大学, 2:日本学術振興会, 3:甲南大学, 4:国際心理支援協会

 目 的
 自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder: ASD)の背景には遺伝的要因が想定されており,養育のような後天的要因とは無関係であると考えられてきたが,近年こうした前提について再考を迫る知見が報告されるようになった。例えば,Rutter et al.(1999)は,深刻なネグレクトを受けた子どもが,当初はASDの症状を示していたにもかかわらず,里親養育を受けた後に症状が改善したことを報告した。さらに,その後の研究によって,虐待的養育が引き起こす反応性アタッチメント障害(Reactive Attachment Disorder: RAD)の症状がが,ASDのそれと酷似していることが指摘され(Moran, 2010),DSM-Ⅳ-TR(APA , 2000)以降,当該障害とASDの鑑別の重要性が強調されるまでになった(Zeanah & Gleason, 2010)。
 しかしながら,不安定愛着とASD様の症状の関連についての従来の研究は,被ネグレクト群(Rutter et al., 1999)やRADの臨床群(Sadiq et al., 2012)が対象であり,一般サンプルにおける検討は極めて少ない。一方で,Boris & Zeanah(1999)は,一般サンプルにおいて生じる愛着の問題とRADのような深刻な愛着の問題が,質的に異なるものではなく,適応という枠組みで見た際に連続線上にある可能性を提起している。Boris & Zeanah(1999)の仮説に依拠すれば,診断レベルには達していなくても,愛着の問題がASD様の症状を促進しうることが予測された。そこで,Matsuo & Fukui(2016)は,一般大学生を対象とした横断研究から,虐待的養育環境が愛着スタイルを媒介して,自閉症傾向を促進することを見出した。ところで,Matsuo & Fukui(2016)では,自閉症傾向の測定に自閉症スペクトラム指数(AQ: Autism-spectrum Quotient: 若林他, 2004)の合計得点を用いていたが,本尺度には,健常群とASD群を判別するカットオフ値が設けられている。そこで本研究では,虐待的養育環境がASDの判別に及ぼす影響における愛着スタイルの媒介効果を検討した。
 方 法
参加者:大学生・大学院生560名(男性195名,女性361名,不明4名:平均年齢20.314歳,SD =3.77)が実験に参加した。なお,本データは,Matsuo & Fukui(2016)で用いたものに新たに追加したものである。
尺度構成:虐待的養育環境を測定するために,Sanders et al.(1991, 1995)によるChild Abuse and Trauma Scaleの邦訳版(田辺, 2005)を使用し,合計得点を得た。愛着スタイルを測定するために,親密な対人関係体験尺度(Brennan et al., 1998)の邦訳版(中尾・加藤, 2004)を使用し,関係不安と関係回避の得点を得た。自閉症傾向を測定するために,若林他(2004)のAQを使用し,そのカットオフ値に基づいて,参加者を非ASD群(0)とASD群(1)に分類した。
 結 果
 自閉症傾向のカットオフ値を超えたのは29名(男性19名,女性9名,不明1名)であったが,性別に有意な偏りは認められなかった(Χ 2(1)=.111, p =.739)。
 続いて,愛着スタイルを媒介要因として,虐待的養育環境がASDの判別に及ぼす影響を検討するために,一般化構造方程式モデリングによる分析の結果をFigure 1に示した。その際,ASDの判別の確率分布にはベルヌーイ分布,リンク関数にはlogitを,関係不安と関係回避の確率分布には正規分布,リンク関数にはidentityを指定した。虐待的養育環境は,ASDの判別に対して直接的には有意な影響を示さなかったが,関係不安と関係回避を介して,間接的に正の影響を示した。
 考 察
 本研究の結果,虐待的養育環境が,関係不安と関係回避を促進することで,間接的にASDの判別に影響を及ぼす,つまり,自閉症傾向の合計得点がカットオフ値を超える確率を高めることが明らかになった。したがって,不安定な愛着スタイルが,診断レベルにまで至る自閉症傾向の予測因子となりうることが示唆された。Moran(2010)は,RADとASDに共通して,心の理論の問題や感情制御の欠如,柔軟性のなさがあると述べているが,RADほど深刻ではない愛着の問題によっても,それらの症状が促進されることが確認されている(e.g., Mikulincer & Shaver, 2016)。つまり,関係不安と関係回避の高まりが引き起こす対人関係の困難も,ASDが引き起こすそれとかなりの重複があると解釈できる。
 なお,本研究の結果は,愛着の問題がASD様の症状を促進する可能性を示唆するものにすぎず,Bettelheim(1967)のように,ASDの原因を養育に帰属させるものではないことを付記しておきたい。一方で,本研究の結果は,愛着の問題によって生じる症状とASDの症状の識別が,一般サンプルにおいても困難である可能性をも示唆している。よって,今後は,一般サンプルにおいて,愛着に起因する問題とASDの症状の識別に寄与する変数を検討する必要があるだろう。

キーワード
虐待的養育環境/愛着スタイル/自閉症スペクトラム障害


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