発表

2D-024

パーソナリティ障害傾向における自己呈示行動の特徴
―自己評価と他者評価の違いに着目して―

[責任発表者] 櫛引 夏歩:1
[連名発表者・登壇者] 望月 聡:2
1:筑波大学, 2:法政大学

  目 的 パーソナリティ障害(以下,PD)では,対人関係様式の障害や認知の偏りが指摘されており(American Psychiatric Association, 2013など),他者との関係性にも不適応的な影響が存在することが示されている(市川・外山・望月, 2015など)。PDの対人関係機能の向上を目的とした介入を行う際には,日常場面に則した条件下での対人トレーニングを行う必要がある(Lis & Bohus, 2013)。したがって,本研究では,日常生活でよく行われているとされている自己呈示(成田・松井, 2009)に焦点を当てて,PDの対人関係上の困難について検討を行う。<また,市川・望月(2013)に倣い,各個人が有するPDの特徴の程度を「PD傾向」として,特に境界性PD傾向・自己愛性PD傾向・演技性PD傾向・依存性PD傾向・回避性PD傾向に焦点を当てて,アナログ研究を実施した。
不適応的な対人行動はPDの主要な特徴であるとされているが(Pincus & Wiggins, 1990),認知バイアスの影響により,PDにおける自己評価と他者評価との間には差異が生じることが指摘されている(Carlson & Oltmanns, 2015など)。そのため,PDの対人行動を測定するためには,自己評価だけでなく他者からの評価(以下,他者評価)が重要である(Kaurin et al., 2018)。また,日常生活には複数の社会的状況が存在し,その場で求められる振る舞いも状況間で異なる(吉田・高井, 2008)。以上のことから,実際の2つの対人場面におけるPD傾向の自己呈示行動について,自己評価と他者評価の違いに着目して検討することを目的とした。
方 法実験参加者 初対面の同性同士同年齢(同学年)の大学生ペア25組(男性18名,女性32名;平均年齢21.84歳,SD = 1.90)
実験手続き 実験開始前に質問紙への回答を求め,親しみやすさの自己呈示を求められる場面として雑談を,有能さの自己呈示を求められる場面として課題遂行をそれぞれ約10分間実施した。実験参加者2名が各場面で雑談・課題遂行をしている間,実験者は退室し,約10分後に再入室した時点で各場面を終了とし,それぞれの場面について質問紙への回答を求めた。なお,親しみやすさおよび有能さ場面の実施順序についてはカウンターバランスをとった。
評定項目 SCID-5-SPQ(First et al., 2016 高橋・大曾根監訳 2017)の境界性PD・自己愛性PD・演技性PD・依存性PD・回避性PDに関する55項目について,5件法で回答を求めた。また,親しみやすさおよび有能さを示す形容詞全10項目を,「~にふるまっていた」という語尾に修正し,自分自身およびペアの相手の自己呈示行動について7件法で回答を求めた。さらに,実験開始前および各場面終了後の状態不安についてVisual Analogue Scale(VAS)による回答を求めた。
結 果 各PD傾向における2場面での自己呈示の特徴を階層線形モデ

ルによって検討した。分析はまず,各PD傾向に区別して実施し,有意ではなかった独立変数をモデルから削除し,最後に有意であった独立変数を全てモデルに投入したところ,Table 1に示す結果が得られた。
 まず,自己呈示行動の自己評価について,親しみやすさの自己呈示を従属変数とした場合,有意な決定係数が得られ(R2 = .40, p < .001),演技性PD傾向が有意な正の関連を,場面および境界性PD傾向が有意な負の関連を示した。有能さの自己呈示を従属変数とした場合,有意な決定係数が得られ(R2 = .19, p < .05),自己愛性PD傾向が有意な正の関連を示した。次に,自己呈示行動の他者評価について,親しみやすさの自己呈示を従属変数とした場合,有意な決定係数が得られ(R2 = .21, p < .05),境界性PD傾向が有意傾向の負の関連を示した。有能さの自己呈示を従属変数とした場合,切片の変量効果の標準偏差は有意であったが,有意な決定係数は得られなかった(R2 = .11, ns)。なお,すべての従属変数において有意な交互作用項は得られなかった。
考 察 どのPD傾向においても,場面に特徴的な自己呈示行動は見られなかった。したがって,PD傾向における自己呈示行動は場面によって変化しないことが示された。演技性PD傾向は,場面に関係なく親しみやすさの自己呈示を行っていると認識していることが示され,親しみやすさの自己呈示を頻繁に行っていると考えられる。自己愛性PD傾向では,自己評価では有能さの自己呈示を行っていることが示された一方で,他者評価では有能さの自己呈示を行っていないことが示されたことから,自己評価と他者評価との間に大きなズレが生じていると推察される。境界性PD傾向では,自己評価と他者評価のいずれにおいても親しみやすさの自己呈示を行っていないことが示されていた。このように自己評価と他者評価が一致して低いことが,境界性PD傾向が高い個人にとって自己確証的に作用し,否定的な自己認知が強化されると推察され,良好な対人関係の築き難さにつながると考えられる。

キーワード
パーソナリティ障害傾向/自己呈示行動/自己評価と他者評価


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