発表

2D-023

心理的・身体的ストレスが労働者の入眠改善に与える影響

[責任発表者] 黄 善斌:1
[連名発表者・登壇者] 武田 知也:2, 谷口 敏淳#:3
1:福山大学, 2:福山大学, 3:Psychoro

 WHO(2016)は,約19億人が不眠症の経験があることを報告している。さらに厚生労働省(2016)によって,日本においても労働者の入眠困難が深刻な問題であり,毎年の経済的損失は約3.5兆円,医療費の損失は約5000億円となることが示された。ICSD-3によると,ストレスは不眠を引き起こす1番の要因とされ(Mayer, 2015),さらに心理的ストレスと身体的ストレスともに入眠に影響を与えることが指摘されている(Harris, 2010)。一方でLack(2005)は,身体的ストレスは快眠効果をもたらすと述べており,ストレスの種類によって入眠への影響は異なっていることが考えられる。
 以上のことから,我々はストレスを心理的ストレスと身体的ストレスに分類し,日本において問題となっている労働者の入眠への影響を検証した。
   方法
参加者 製造業に勤める労働者を対象とした。除外基準として精神科通院中の者とした。
手続き A会社の健康診断実施時に調査用紙を配布した。回答は健康診断開始10分間を利用し,調査に関する説明を行い,同意が得られた者にのみ回答を求めた。
質問紙 フェイスシート,心理的ストレス反応尺度(SRS-18),身体的ストレス反応尺度,そして入眠内省尺度から構成された。
①フェイスシートは,年齢と性別の2項目について尋ねた。
②SRS-18 (鈴木他,1997)では,出来事に対する心理的ストレスを測定した。高得点ほど心理的ストレスが高いことを意味する。
③身体的ストレス反応尺度(岡安他,1992)では,身体的ストレスを測定した。高得点ほど身体的ストレスが高いことを意味する。
④入眠内省尺度(山本他,2003)では,入眠状態を測定した。高得点ほど入眠状態が悪いことを意味する。
解析方法 記述統計および各尺度の正規性検定,そして目的変数を入眠状態,説明変数を心理的ストレス,身体的ストレスとした重回帰分析を実施した。。全ての解析にはHAD Version16.03を用いた。
倫理的配慮 対象者には,研究の目的‧内容‧方法及び倫理的配慮を記入した文書を調査票とともに配布した。回答後の調査票は個別で回収し,回答をもって同意が得られたと判断した。
 結果
 126人を調査用紙に配布した。回収率は91%で男性75名(平均年齢=37.4±11.1歳),女性51名(平均年齢=37.3±10.9歳),合計126名(平均年齢=37.4±11.1歳)を分析対象とした。
 正規性検定の結果,SRS-18及び入眠内省尺度において正規性が認められ,身体的ストレス反応尺度において正規性が認めなかった。重回帰分析の結果,身体的ストレス反応尺度のみ入眠内省尺度の得点に負の影響を与えることが示された(図1)。
  考察
 本研究では,労働者における心理的・身体的ストレス反応の入眠への影響を検討した。本研究の結果,身体的ストレス反応が入眠状態を改善することが示された。本研究の結果は,Lack(2005)の結果と一致しており,身体的ストレスは労働者の入眠状態を改善することが示唆された。
 一方で,先行研究の結果を踏まえると,心理的ストレスは入眠を妨げることが考えられる。しかし,本研究ではそのような結果が得られなかった。それは心理的ストレスに対する捉え方(認知的評価)や耐性(レジリエンス)などによってストレスの影響が緩和もしくは増加する可能性があるためと考えられる。今後は,認知的評価やレジリエンスも含めた検討が望まれる。本研究の結果より,身体的ストレス反応を高めることは,労働者の入眠困難に対する1つの改善方法となる可能性が示唆された。
 本研究には2つの限界が挙げられる。まずひとつめは,日常生活で感じるストレスは身体的ストレスと心理的ストレスの2つだけではない。例えば物理的ストレスがある(野村,2003)。今後は,他のストレス因を含めた幅広い検討が望まれる。ふたつめは,本研究は製造業に携わる労働者のみを対象としたことである。したがって,労働の種類が限定されており,他の種類の労働でも同様の結果が得られるかは定かではない。例えば,労働によっては,身体的疲労が蓄積されるもの,反対に心理的ストレスが蓄積するものがあると考えられる。そのため,業種の違いによる検討も今後の課題である。
  引用文献
岡安 孝弘・嶋田 洋徳・坂野 雄二(1992).中学生用ストレ  ス反応尺度の作成の試み 早稲田大学人間科学研究, 5,23-29.
鈴木 伸一・嶋田 洋徳・坂野 雄二(1997).新しい心理的ス トレス反応尺度 (SRS-18)の開発と信頼性・妥当性の 検討影響 行動医学研究,4,22-29.

キーワード
労働者/心理的・身体的ストレス/入眠改善


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