発表

2D-022

死後脳研究ドナー登録者の意識
高齢者ブレインバンク生前同意登録者を対象とした質的研究

[責任発表者] 小幡 真希:1
[連名発表者・登壇者] 松原 知康#:1, 種井 善一#:1, 渋川 茉莉#:1, 本山 りえ#:1, 広吉 祐子#:1, 仙石 錬平#:1, 仁科 裕史#:1, 古田 光#:1, 新井 冨生#:1, 村山 繁雄#:1
1:東京都健康長寿医療センター

【目的】病理解剖,献体や臓器移植などは,医学や社会への死後の貢献である。豪州において死亡診断後に実施される組織提供を決断した77名の遺族に関する研究がある(Wilson P,2006)。その決断に至った大きな理由は,故人の生前の意思や思いを遺族が引き継いでいることであった。しかしその故人の生前の意思や思いは明らかとなっていない。
 本邦には高齢者ブレインバンク(BB)事前同意登録(ドナー登録)がある。自分の死後に脳を医学研究へ提供する意思表示であり,生前に自ら病理解剖と献脳を希望し,家族へもその意思を表明をしている。
 本研究では,自ら死後に病理解剖および脳提供の意思を表明しているドナー登録者を対象とし,先行研究では扱われていなかったドナーの意識を明らかにすることを目的とする。
【方法】ひとり一時間程度の半構造化面接を設定し,「ドナー登録した理由」から自由に語られる内容を,面談者が深めていく形式とする。対象ドナーは,医療的配慮から主治医から面談適応の了承を得られた患者数名程度を対象とする。
 研究趣旨と同意書を郵送し研究協力を得て候補者を選定し,面談の前に紙面にて再度研究説明を行い,同意書へ自署を取得する。その後,高齢者うつ尺度により精神的健康のスクリーニングを実施する。抑うつや治療的配慮の必要性が認められた場合には面談は行わず,主治医に連絡し指示を仰ぐこととする。語られた内容を検討する質的分析を行う。
 なお,本研究は研究実施施設の倫理研究承認を受けている。また,語られた内容の発表には,個人が特定されないよう,内容の一部を趣旨が変わらない程度に変更して掲載する。
【結果】候補3名の推薦を主治医より受けた。郵送にて研究依頼をした結果,3名から協力承諾を得た。2018年3月から4月の間に個別に面談し,面談開始前に研究説明と同意を行い自署にて同意を得た。各ドナー登録者情報を以下に示す。
 ・『熱心な社会奉仕活動』男性,70代(ドナー登録歴約6年),大学卒。学童期より社会活動への関心が高く,会社員時代は労働組合にて活動し,現在もNGOなどに加わり精力的に活動。語りの分量は,質問等も含めて20,513文字であった。
 ・『篤い信仰心』女性,90代(ドナー登録歴約2年半),女学校卒。10代に医療職を志すも家庭の事情で断念。20代で入信し現在も熱心に信仰。語りの分量は15,451文字であった。
 ・『家族性疾患』女性,60代(ドナー登録歴約8年),短期大学卒。音楽教室主宰。身内に同一疾患の発症者が多く,その内数名は死亡後にブレインバンクへ献脳済み。語りの分量は19,078文字であった。
 次に,3名を条件に設定し,定量テキスト分析を行い,KH-Coder ver.3(樋口耕一,2018)の共起ネットワークを用いて語と語の結びつきの傾向を検討した。
 その結果(図),3条件いずれも,BBとドナー登録と共に,「脳」「私・自分」の語と強い結びつきが示された。『信仰心』と『家族性疾患』には「親」「死・亡」および「役立」の語が示された一方,『家族性疾患』と『社会奉仕』には「研究」「人」「家族」「良い」の語との結びつきが示された。
【考察】これら3名の語りを横断的に検討すると,ドナーに至った経緯は,社会貢献への関心や神に捧げる信仰心,家系的な難病等とそれぞれの背景要素は異なっていた。しかし,3名いずれも「ドナーである私自身とその脳」を強く意識していることが認められた。くわえて,家族性疾患を有するドナーは,死によって親と共に研究に役立てる意識が推察され,信仰心の篤いドナーとも親や死後に役立つとする共通した意識が認められた。また,社会貢献に関心の高いドナーは,研究や人,家族とのポジティブな繋がりが推察され,家族性疾患ドナーとも共通した意識が推察された。
 これらから,「個」である自分自身が脳を提供する積極的な意味を見出している意識が推察された。また,ドナー登録者は,死後の貢献という自分自身の死を理解しながら,その先の医学研究利用を期待感を持って意識している意識が認められた。
 なお,老年期は「喪失の年代」(身体的能力,関係性,役割などの喪失)(竹中星郎,2002)ともいわれている。本研究の対象者は,ドナー登録すること自体をその時期に見出す喪失の代替というよりも,ドナー登録を積極的で能動的に選択している意識があると考えられた。
 ただし,対象者3名は,現在でも長年続けてきた社会との関係性を有しており,高齢期であっても「喪失」は一部に限られている状況が関係していることも推察される。
 今後は,3名の語りを統合し,更なる質的研究法略を用いて,語りの中から示されるドナー登録者の意識を分析することが必要であると考える。くわえて,今回の対象者とは異なる背景を有するドナー登録者も対象とした研究が必要があると考える。
謝辞:ご協力いただいたブレインバンクドナー登録者の皆さまに深謝します。

キーワード
死後脳ドナー/生前同意/質的研究


詳細検索