発表

2C-026

中高年の死別経験と故人に関する不随意記憶(2)
―配偶者との死別者の不随意記憶に関する探索的検討―

[責任発表者] 田上 恭子:1
[連名発表者・登壇者] 山中 亮:2
1:愛知県立大学, 2:名古屋市立大学

目 的
 死別への適応における故人との継続する絆に関して,最近では絆の適応-不適応性の違いの検討や,絆を力動的な認知プロセスとして捉える必要性が指摘されている(e.g.,Stroeve et al.,2010)。本研究では故人に関する不随意記憶に着目し,配偶者との死別経験者における特徴と故人との絆及び死別への適応との関連を探索的に検討することを目的とする。
方 法
1. 調査対象者と手続き
 故人に関する記憶の調査に協力可能な配偶者との死別経験者を募るために,40歳以上79歳以下の一般成人を対象にWeb調査1を実施し,10,311名から回答を得た。対象は株式会社クロス・マーケティングのモニター登録者であった。調査1では,基本属性,日本語版WHO-5(岩佐他,2007),死別経験の内容,日本語版Continuing Bonds Scale(中里他,2008),Web調査2への協力の可否について尋ねた。配偶者・パートナーとの死別を経験した者で調査2に協力可と回答した者200名を対象に調査2を実施した。調査の実施及び調査1と調査2のデータの対応づけは同社に委託した。
 なお本研究は名古屋市立大学人間文化研究科研究倫理審査委員会の審査・承認を受け実施した(ID:17020)。
2. 調査2内容
 1)故人についての不随意記憶の想起頻度(全くないと回答した場合は調査終了とした),2)故人についての繰り返しの不随意記憶の有無,3)不随意記憶内容の記述(繰り返しの不随意記憶が有る場合はその概要,無い場合は任意の不随意記憶1つの概要),3)2)で回答した不随意記憶に関する質問: a.出来事の経験時期(西暦年の入力または不明の選択),b.不随意記憶想起時の感情(悲しみ,なつかしさ,さみしさ,やすらぎ,苦痛,優しさ),c.想起時の主観的体験(記憶の全体的印象1項目,鮮明度4項目,再体験感3項目,当時の感情3項目,出来事への関与1項目;関口,2011; Takahashi & Shimizu,2007から項目を選択)。
結 果
1. 対象者の属性及び配偶者との死別経験の内容
 有効回答168名(男性43名,女性125名;年齢67.91±9.09歳)を分析対象とした。現在の家族構成は独居が77名(45.8%)と最も多かった。平均WHO-5は14.21±5.92,平均死別時年齢56.09±13.21歳,死別経験からの平均経過年11.82±10.19年,平均CBS得点36.50±9.19(得点範囲12-55),平均主観的回復度4.08±1.49(得点範囲1-6)であった。
2. 故人に関する不随意記憶の想起頻度
 「ときどき思い浮かんでくる」が66名(39.3%)と最も多かった。繰り返し想起される出来事があるのは138名(82.1%)であった。不随意記憶の想起頻度と死別からの経過年及び主観的回復度との間には負の(r=-.21,-.40,p<.01),CBSとの間には正の(r=.53,p<.001)相関が認められた。
3. 故人に関する不随意記憶の想起時の感情と死別経験
 死別経験からの経過年が長いほど「なつかしさ」が高かった(r=.20,p<.01)。主観的回復度と「悲しみ」「さみしさ」「苦痛」に負の相関が認められた(r=-.44,-.37,-.39, p<.001)。CBSとは「苦痛」以外で正の相関が認められた(r=.28-.49,p<.001)。
4. 想起時の主観的体験と死別経験
 主観的体験12項目それぞれについて検討した。全ての項目がCBSと正の相関を示した(r=.27-.53,p<.001)。死別からの経過年とはいずれも相関は認められなかった。主観的回復度については,鮮明度2項目(「視覚的詳細」「音の含有度」),再体験感3項目,当時の感情2項目(「当時の感情の想起」「当時の感情強度」),出来事への関与1項目との間に負の相関が認められた(r=-.22--.28,p<.01)。
考 察
 故人との絆と不随意記憶の頻度や想起時の感情・主観的体験との関連,及び死別への適応に関わると考えられる変数との関連から,日本語版CBSで測定される絆は必ずしも配偶者との死別への適応を示すものではないことが示唆される。また故人についての不随意記憶の想起頻度の高さや想起の鮮明さ,再体験感等は,喪の途上にあることを示すひとつの指標となり得る可能性がうかがわれる。
 不随意記憶の内容を含めた分析,想起時の感情と主観的体験との関連,時間的経過による変数間の関連の変化など,さらに詳細な検討を重ねていくことが今後の課題であると考えられる。
引用文献
 岩佐 一他(2007). 日本語版「WHO-5精神的健康状態表」の信頼性ならびに妥当性―地域高齢者を対象とした検討― 厚生の指標, 54, 48-55.
 中里 和弘他(2008). 日本語版Continuing Bonds Scale(「故人との絆の継続」評価尺度)の作成 日本心理学会第72回大会発表論文集, 376.
 関口 理久子(2011). 自伝的記憶想起に伴う現象学的・主観的特性について―自伝的エピソード記憶の主観的特性質問紙を用いた検討― 関西大学心理学研究, 2, 7-17.
 Stroeve,M.,et al.(2010). Continuing bonds in adaptation to bereavement: Toward theoretical integration. Clinical Psychology Review, 30, 259-268.
 Takahashi,M., & Shimizu,H.(2007). Do you remember the day of your graduation ceremony from junior high school?: A factor structure of the Memory Characteristics Questionnaire. Japanese Psychological Research, 49, 275-281.
謝 辞
 本研究は科研費(課題番号26380935,18K03146)の助成を受けた。

キーワード
不随意記憶/継続する絆/配偶者との死別


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