発表

2C-022

児童期における家族の思い出が大学生の育児観に与える影響

[責任発表者] 上 恵実:1
1:奈良女子大学

 目的
 近年少子化が問題となっているが,その背景の一つとして“子育てそのものに対する負担感の増大”が挙げられている(厚生労働省, 1999)。野中(2013)は,家族形成意識には育ってきた家庭環境が影響することを明らかにしたが,具体的にどういった家庭環境が影響するのかを検討した研究は寡少である。そこで,本研究では“児童期における家族の思い出”に着目した。また,藤田(1987)の先行研究を受け,現在の家族機能にも焦点をあてた。本研究の目的は,児童期の思い出が現在(大学生時期)の家族関係,育児観にどのような影響を与えているかを明らかにすることであった。
 方法
 <調査対象>大学生145名(男性30名,女性115名, 平均年齢19.9歳, SD=1.41)を対象に質問紙調査を実施した。
 <調査内容>(ⅰ)フェイスシート:年齢,性別,現在の居住形態,家族との連絡頻度の回答を求めた。(ⅱ)児童期の家族関係に関する質問:最も印象的なエピソードについて自由記述形式で回答を求め,それが自身にとってポジティブなものかネガティブなものかについても尋ねた。また,当時の家族関係を5段階で評価するよう求めた。(ⅲ)家族機能測定尺度(草田・岡堂, 1993):家族関係および現実と理想の家族機能を測定する尺度で,草田・岡堂(1993)がOlsonほか(1985)のFACESⅢを和訳して作成した尺度。(ⅳ)育児への積極性尺度(佐々木, 2007):佐々木(2007)が作成した尺度。(ⅴ)児童期以降の家族関係の変化に関する質問:児童期以降の家族関係が現在の育児観へ影響を与えている可能性を踏まえ,この項目を作成した。
 結果
 まず,家族機能測定尺度の各項目得点について因子分析を行ったところ, 親密性因子(α=.90), 自主性の尊重因子(α=.74), 役割分担因子(α=.56)の3因子を抽出した。次に,児童期の家族関係と現在の家族関係,育児への積極性の関連を調べるため,ポジティブエピソード群とネガティブエピソード群それぞれにおいて相関分析を行った。その結果をもとに共分散構造分析を行った結果,児童期における家族の最も印象的な思い出がポジティブなものであった場合は “親密性”を,ネガティブなものであった場合は“自主性の尊重”を媒介して育児への積極性へとつながる可能性が示唆された(Figure1, 2)。
 また,KJ法を援用して分析を行った結果,ポジティブエピソードは日常エピソードと非日常エピソードに,ネガティブエピソードは直接的エピソードと間接的エピソードに分類された。さらにt検定の結果,ポジティブな思い出のなかでも日常場面の思い出が印象に残っている人のほうが育児に対して積極的であることが分かった(t(92)=2.37, p<.05)。
 考察
 児童期における家族の思い出は,現在の家族関係を通して育児への積極性へとつながることが明らかとなった。ポジティブエピソード群は,児童期に温かい家庭を経験してきたことで自らの育ってきた家庭がモデルとなり,育児に対して前向きになれると推察される。一方のネガティブエピソード群は,児童期の家庭における苦い経験を乗り越えることで自主性を獲得し,それを尊重してもらえる家庭環境があることで自らに自信がつき,育児に対しても不安を感じにくくなると推察される。
 日常場面のポジティブな思い出の方が育児への積極性に繋がりやすいのは,育児が日常生活に深く根差していることが関係していると考えられる。
  引用文献
藤田祥子(1987). 「家族関係」授業を通してみた女子大学生
 の家族観 奈良教育大学教育研究所紀要, 23, 23-28.
厚生労働省(1999). 少子化対策推進基本方針
 https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/syousika/
 tp0816-2_18.html
草田寿子・岡堂哲雄(1993). 家族関係査定法 心理検査学
 (pp.573-581) 垣内出版
野中美津江(2013). 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナ
 ー研究発表要旨集, 56, 97.
佐々木綾子(2000). 親性準備性尺度の信頼性・妥当性の検討
 福井大学医学部研究雑誌, 8, 41-50.

キーワード
家族/思い出/育児観


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