発表

2C-021

児童養護施設における子どもとの関わり
-勤続年数に着目して-

[責任発表者] 大地 真穂:1
1:奈良女子大学

 目 的
  近年,児童養護施設は厚生労働省を中心に小舎制や小規模グループケアへの小規模化を進める取り組みが進められているが,多くの先行研究で小規模施設における職員の負担増加が指摘されている。職員の離職率を勤続年数別で見ると,3年目までの職員の離職が80%を占めている。このことから,就職後早い段階で離職をする職員が多いことが窺えるが,職員が「どの時期にどんな体験をする」のかを明らかにした質的研究はほとんどない。そこで,本研究では,児童養護施設の児童指導員を対象にインタビュー調査を行い,施設で働く中での心理的プロセスを明らかにするとともに,年数別の職員の位置づけについて考察することを目的とした。

 方 法
<予備調査>
 関西圏内の児童養護施設Xを対象とし,勤続3年目までの児童指導員2名にインタビュー調査を実施した。施設の概要を把握するために,「施設内で行う会議の種類や頻度」「日常の子どもとの関わり方」を中心にインタビューガイドを作成した。インタビューの内容から,新人職員は日々手探りで子どもと接し続けていること,子どもとのトラブルや長時間の言い合いをすること等が分かった。この結果から,新人時代に同様の体験をしたと考えられる現ベテラン職員にもインタビュー調査を実施し,施設に就職をしてから現在までに,どのように困難を乗り越えてきたのかを検討する必要があると考えた。
<本調査>
 同施設を対象とし,勤続2年目から11年目までの児童指導員9名にインタビュー調査を実施した。調査時期は2018年10月である。そのうち,勤続年数5年未満を勤続年数短群(4名),5年以上を勤続年数長群(5名)に分類した。さらに勤続年数3年未満の職員を新人職員として分類した。質問内容に「働き始めた頃と現在との子どもとの関わり方の変化」「離職を考えた時期」「離職を踏みとどまった理由」等を追加したインタビューガイドを作成した。分析には木下(2007)による修正版グラウンデッド・セオリーアプローチ(以下,M-GTA)を用い,施設に就職をしてからベテランの職員として成長をするまでの期間に生じる,職員の心理的変化やそれに関連する施設内体験について検討した。

 結 果
 M-GTAを用いた分析の結果,【施設への就職】【新人職員としての関わり・立ち位置】【離職の分岐点】【ベテラン職員としての関わり・立ち位置】の4つのカテゴリーが生成された。
 新人時代は,子どもとの関係性が十分に構築されていない中で「注意を聞いてもらえない」等を多くの職員が経験しており,このことから「子どもが悪いことをしたら大声で叱る」のような,子どもに対して厳しく接せざるを得ない体験をしていることが分かった。一方で,年齢の近い年数短群の職員ならではの関わりとして「子どもから甘えられる」等の体験も挙げられた。
 語りから,就職後3-5年において多くの職員が離職するかどうかの分岐点に立つことが見出された。その理由として,新人職員が入ってくることで任される「仕事量の増加」や,一般家庭とは異なる「関係の不安定さ」,思い通りにならない「子どもとの関わり」の3つが関連していることが明らかとなった。しかし,このような分岐点に立った職員にとって「関係の悪化した子どもとの関係に他の職員が介入してくれた」等の体験が,仕事を続ける活力につながったことが語られた。
 年数長群の職員からは,長い年月の中で積み重ねてきた子どもとの関係を基盤とし,「子どもの反応を予測しながら関わる」等の体験をしていることが語られた。また,自身の施設内での立ち位置の変化(役職に就く等)から,年数短群の頃と比較して「子どもと一定の距離を保てるようになった」「子どもが注意を聞いてくれる」こと等が挙げられ,子どもとの関わりにおける新人時代から現在にかけての心の動きもみられた。

 考 察
 新人職員は,子どもからの反抗的な態度に対して大声で叱ってしまう等の体験を通じて,自分の思う通りに子どもが反応しないことは理解している一方で,威圧的な態度で関わりを持とうとしてしまう葛藤がストレスとなっている可能性が考えられる。
 職員が離職を考える時期としては,その多くが就職後3-5年目であることが明らかとなったが,これは,施設職員の定着率が勤続5年未満において最も低いという現状と一致しいていた。一方で,離職への考えを抑制する一つの要因として,多くの職員によって「他職員の支え」について語られていた。新人職員という時期を経て,仕事や人間関係の中で不安や責任を抱えるこの時期は,連携場面を活用し職員自身の心的状態の整理をしていく必要性が感じられる。
 さらに本研究では,施設内で異なる年数の職員が子どもにとっての役割を分担している可能性が示唆された。年数短群は施設の子どもにとって距離の近い存在であり,誰かに甘える体験をするきょうだい的な役割をしている一方,年数長群は,広い心で子どもを受け止める親的な役割を果たしていることが考えられる。

  引用文献
木下康仁 (2007).グラウンデッド・セオリー・アプローチの 実践―質的研究への誘い 弘文堂

キーワード
社会的養護/児童養護施設/早期離職


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