発表

2C-019

心的現実を構成する方略としての物語生成の様相
4コマ漫画を用いた実証的検討

[責任発表者] 田中 良人:1
[連名発表者・登壇者] 佐々木 玲仁:2
1:九州大学, 2:九州大学

<目的>
 本研究では,心理臨床の場において人が語る物語がどのように生成されているのかということに迫るため,Bruner(1986/1998)の「2つの思考様式(表1)」の1つ「物語的思考様式」に着目し,その実際の思考の過程,構造を実証的に明らかにする。Brunerの思考様式理論はこれまで多く論じられてきたものの,人が具体的にいかなるプロセスを経て,複数の出来事を関連付け,接続して物語化するのかということについては明らかになっていない。心理臨床の場では,クライエントの語る自らについての物語を扱うが,その物語を扱うための前提として,人がいかに身の回りの出来事を物語化し,それを自らの主観的現実として認識するのかということを具体的に明らかにする必要がある。本研究は臨床心理学の基礎的研究として,人が日常的に心的現実を構成するため行う物語生成の在り方を記述すること,また心理臨床場面における物語生成についての示唆を得ることを目指す。
<方法>
 協力者は8名,平均年齢は23.0歳,SDは3.87であった。実験の刺激として,協力者が接続すべき「複数の出来事」を「4コマ漫画の1コマ目と4コマ目」とし,既存の4コマ漫画作品から2コマ目と3コマ目の部分を空欄にした刺激を5つ作成した。教示として,(1)刺激が4コマ漫画の1コマ目と4コマ目であること,(2)刺激を1つの物語にして,それを語ってほしいこと,(3)また本調査では元の4コマ漫画の内容を再現することを目指すのではないこと,(4)協力者の自由につなげてよいことを伝えている。5つの刺激それぞれについて物語を作らせたのち,物語の生成過程についてインタビューを行った。
 分析としては,個々の物語の内容を精読してその構造を抽出し,刺激ごとに物語の筋の分岐を一望できるように1つの図としてまとめた。またインタビューからそれぞれ物語がいかなる思考の過程を経て,生成されたのかまとめ,協力者ごとの物語生成の特徴を記述した。なお本研究は九州大学大学院人間環境学府倫理審査委員会の審査を受けている。
<結果と考察>
 前述の方法で8協力者×5刺激で延べ40の物語を得た。協力者それぞれの物語生成の過程を追い,「最初に着目した点」「刺激内の状況を判断した理由」など物語の生成要因として語られた内容から,物語を作り出す際の要素として【物語作成の基本的アプローチ】【刺激外要素の持ち込み方】の2つを生成した。
 【物語作成の基本的アプローチ】は,眼前の刺激からいかに物語を導き出すかということについての方法である。主にトップダウン的アプローチと,ボトムアップ的アプローチの2つが見出された。トップダウン的アプローチは刺激について,先にその物語のテーマや筋のパターンを導入し,それから細かな要素を当てはめていくことにより物語を成立させるものであり,ボトムアップ的アプローチは刺激の1つ1つの要素を解釈し,それらを結びつけることによって帰納的に物語を立ち上げるものであった。
 【刺激外要素の持ち込み方】は,眼前の刺激にはない要素を物語に持ち込み,反映させる方法である。これに当てはまるものとして3つのものが見出された。自らの経験などの「協力者自身に由来する情報」,性格などの「他の刺激に共通して登場するキャラクターに関する情報」,4コマ漫画の作者の特徴などの「調査の枠組み外に由来するメタ情報」である。
 これら【物語作成の基本的アプローチ】【刺激外要素の持ち込み方】を軸に取り,改めて協力者の物語生成の特徴を検討したところ,8人の協力者が主とする物語生成の仕方をさらに考察した。その内「ボトムアップ的アプローチ」×「メタ情報」の例では,メタ情報を元に「当然こうなるべき」物語を導き出そうとする,Brunerの論理―科学的思考様式を思わせるものであり,物語的思考様式の一形態として論理-科学的思考様式を位置づけることができる可能性が示唆された。また,協力者の中には,論理的には導き出されないものの,作り手自身が納得できる物語を選択して語るものもあった。このような「誰が聞いてもつながりの良い物語」ではなく,「自らが納得できる物語」を作り出す在り方は,臨床における物語を思わせるものであった。田中(2016)は「クライエントがみずからの物語を表現する時,たとえ矛盾や曖昧さを孕んでいても,それが物語の真実であり,強いて論理的なストーリーとして了解しようとしないこと」が臨床家にとって必要であるとしている。真に納得できるような物語は普遍性よりも個別性を持つものであり,必ずしも他人には説明しえない水準において存在することが調査において示唆された。
<文献>
Bruner, J. (1986). Actual Minds, Possible Worlds. Harvard University Press. 田中一彦(訳) (1998) 可能世界の心理. みすず書房.
田中史子(2016).物語(tale)の臨床心理学―“お話”にならないお話がもつ治療的意味.創元社.

キーワード
物語/物語的思考/心的現実


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