発表

2B-034

大学院新入生を対象とした学内開放型グループ交流活動への参加がコミュニティ感覚や気分状態に及ぼす効果の再検討
大学院新入生交流会の試みとその効果(3)

[責任発表者] 小澤 郁美:1,2
[連名発表者・登壇者] 黄 正国:3
1:広島大学, 2:日本学術振興会, 3:広島大学保健管理センター

目 的 諸外国と比べて日本では修士・博士学位取得者が占める人口割合が低いことが指摘されおり,リカレント教育を含めて2040に向けて大学院進学者を増やす方針が策定されている(中央教育審議会,2019)。今後,大学において大学院生への支援を強化していくことが喫緊な課題である。一方で,大学院生は研究及び進路に強い不安を抱えており,抑うつ等の心身の不調を訴えていることが明らかになっている(Nature’ 2017 graduate student survey)。
 また,大学の修学支援や学生相談体制は学部生中心に設置されており,大学院生へのサポート体制は充実しているとはいえない。とりわけ,約35%の大学院生は他大学出身であることが明らかになっていることも踏まえると(文部科学省,2016),新しい環境に適応するために,大学が提供するサポート資源の種類や内容に関する情報や,その資源を利用するための手続き等に関する情報提供は必要不可欠であると考えられる。
 大学院新入生を対象に学内開放型グループ交流活動(以下,院生交流会)を企画・実施し,院生交流会が参加者のコミュニティ感覚や気分状態に及ぼす効果について検討した黄他(2019)では,院生交流会の前後で緊張-不安,疲労,混乱が低下し,他大学からの新入生の所属感が上昇した。本研究では,黄他(2019)と同様に実施した院生交流会が大学院新入生のコミュニティ感覚尺度や気分状態,ストレス状態,援助要請意図に対する利益とコストの予期,主観的ソーシャル・キャピタルに及ぼす影響を検討することを目的とした。
方 法 参加者 国立A大学大学院に入学した大学院1年生31名(博士課程前期生28名,博士課程後期生3名;男性16名,女性15名;A大学からの進学者5名,他大学からの進学者26名)。
 質問紙の構成 (a)援助要請意図に対する利益とコストの予期尺度 永井・鈴木(2018)の尺度のうち,各因子において因子負荷量の高い項目3項目ずつ計21項目を実施した(5件法)。(b)主観的ソーシャル・キャピタル尺度 芳賀・高野・羽生・坂本(2017)の尺度項目に関して,研究室(あるいはゼミ)の仲間全体を想定した回答を求めた(計11項目,5件法)。(c)今津他(2006)のストレスチェックリスト・ショートフォームを実施した(計24項目,3件法)。(d)日本版コミュニティ感覚尺度 井上・久田(2015)のコミュニティ感覚尺度のうち,「居心地の良さ」(ex. 私はこの大学に所属しているという感覚が強い等)と「所属感」(ex. この大学は居心地が良い等)の下位尺度を実施した(計8項目。4件法)。(e)日本語版POMS 2 参加者の気分状態を測定するために,友好を除く,怒り―敵意,混乱―当惑,抑うつ―落ち込み,疲労―無気力,緊張―不安,活気―活力を用いた(計30項目。4件法)。(f)院生交流会の評価 交流会の評価を5件法で回答させた。感想を自由記述で記載させた。(g)フェイス項目 学年,年齢,性別,出身大学(A大学からの進学か,他大学からの進学か)を尋ねた。
 手続き 20XX年4月の平日最終講義終了後に院生交流会を実施した。院生交流会は5―6名程度の小グループに分かれた3回のフリートークから構成された。1回のフリートークの時間は10―15分程度であり,毎回グループの構成員を入れ替えて実施した。1回目と2回目のフリートークでは,自己紹介やや大学院生活で困っていること等についての意見交換が行われた。3回目のフリートークでは専攻が近しい参加者同士を同グループとし,情報交換を行った。
 院生交流会の開催直前にフェイス項目,援助要請意図に対する利益とコストの予測尺度,主観的ソーシャル・キャピタル尺度,ストレスチェックリスト・ショートフォーム,日本語版コミュニティ感覚尺度,日本語版POMS 2への回答を求めた。会の終了後に再度コミュニティ感覚尺度とPOMSに回答してもらい,院生交流会の評価にも回答を求めた。
 加えて,会終了から約2週間後に援助要請意図に対する利益とコストの予測尺度,主観的ソーシャル・キャピタル尺度,ストレスチェックリスト・ショートフォーム,日本語版コミュニティ感覚尺度への再回答をWebで実施した。本稿では交流会の前後のコミュニティ感覚尺度とPOMS 2の結果に主な焦点を当てて報告する。
結果と考察 コミュニティ感覚尺度およびPOMS 2の各下位尺度についてデータに欠損のない参加者を分析対象者とした。コミュニティ感覚尺度の各下位尺度(所属感・居心地の良さ)とPOMS 2の6因子の各合計評定値について,時期(参加者内;事前・事後)を独立変数とした対応のあるt検定を実施した。
 その結果POMS 2については,混乱―当惑(t (27) = 5.78, d = 0.80, p <.01),抑うつ―落ち込み(t (29) = 3.72, d = 0.49, p <.01),疲労―無気力(t (27) = 5.38, d = 0.92, p <.01),緊張―不安(t (26) = 5.72, d = 1.04, p <.01)において事後の方が事前よりも有意に得点が下がり,黄他(2019)と類似した結果が得られた。また,怒り―敵意についても事後の得点が有意に低下した(t (27) = 2.70, d = 0.46, p <.05)。交流会についての評価に対して,87%の参加者が「交流会に参加して,気持ちが楽になった」と回答していたことを踏まえると,院生交流会に参加したことで大学院新入生の気分状態が改善されたと考えられる。
 他方,コミュニティ感覚尺度については黄他(2019)と異なり,いずれの下位尺度についても有意差は見られなかった。本研究と黄他(2019)の条件を比較すると,他大学出身者と内部進学者の割合に明らかな差があった。参加者の特性や交流会で出たフリートークの内容が関連した可能性があるため,今後この仮説を検討していく必要がある。

キーワード
学生支援/ピア・サポート/サポートグループ


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