発表

2B-032

その体験的技法で大丈夫?
―文化的背景に着目した体験的技法の効果検討の経過報告(2)―

[責任発表者] 嶋 大樹:1
[連名発表者・登壇者] 武藤 崇:1
1:同志社大学

【背景】
 心理療法においては,行動変容を促すためにエクササイズやメタファーなどの体験的技法を使用する。その際には,支援者と被支援者が体験を共有し,共有された体験とリンクした技法を用いる必要性が指摘されている(武藤, 2013; 2014; 2017)。体験との類似度によって効果が増減するのであれば,異なる文化圏で作成された技法の翻訳版をそのまま使用することは望ましくない。そこで本研究では,文化的背景に着目して技法を改良し,効果に差異が生じるのかを検証する。本研究で使用する体験的技法は,不快な私的出来事を避けようとする試みである“体験の回避”(Hayes et al., 1996)の補集合である“アクセプタンス”の増進を主たる目的としたものである。
【方法】
 参加者
 健康な大学生29名(女性12名,回答拒否1名,平均年齢20.76±0.87歳)を対象者とした。主に日本語を母語とし,日本での生活歴が海外におけるそれよりも長い者を対象としたが,留学生が参加した場合には後述の統制群に割付けた。
 群設定と介入内容
 参加者を以下の3群に割付けた。
・翻訳版群(11名):不快な体験を受け入れつつパーティを楽しむ場面を想起する,ホームレスのジョーのメタファーを実施した。
・日本版群(11名):上記メタファーの登場人物を苦手な同期,場面を大学の歓迎会などの飲み会と変更して実施した。
・統制群(7名,うち留学生1名):感覚や痛み対処に関する講義を実施した。
 指標
1)Acceptance and Action Questionnaire-II(AAQ-II; 嶋ら, 2013):体験の回避の程度を測定する7項目7件法の尺度である。
2)Acceptance Process Questionnaire(APQ; 嶋ら, 2017):アクセプタンスの程度を測定13項目7件法の尺度である。
3)Cognitive Fusion Questionnaire(CFQ; 嶋ら, 2016):思考と現実とを混同する行動である認知的フュージョンの程度を測定する7項目7件法の尺度である。補足的に使用した。
4)Five Facet Mindfulness Questionnaire(FFMQ; Sugiura et al., 2012):マインドフルネスの程度を測定する39項目5件法の尺度である。
 手続き
 アンケート回答後,翻訳版群/日本版群には,アクセプタンスに関する心理教育,体験的技法を実施した。統制群は講義を受けた。介入後,再度アンケートへの回答を依頼した。
 解析
 群と時期(pre,post)を要因とする,2要因混合計画の分散分析により検定した。
 倫理的配慮
 倫理委員会の審査,承認を経て実施した。また,各参加者より同意を得た。
【結果と考察】
 分析の結果,CFQのみ交互作用が有意であった(F (2, 26) = 4.04, p = .03)。単純主効果検定の結果,翻訳版群においてpostでpreよりも得点が低かった(F (1, 10) = 12.66, p = .01)。ただし効果量は小さかった(Cohen’s d = 0.35)。また,APQにおいて時期の主効果が有意であった(F (2, 26) = 8.20, p = .01)。効果量は,翻訳版群が0.23,日本版群が0.60,統制群が0.29であり,改良された技法の効果が最大であった(Fig. 1)。その他の指標においては,交互作用は示されなかった(AAQ-II: F (2, 26) = 0.93, p = .41; F (2, 26) = 2.05, p = .15)。この結果は,体験的技法を対象者の背景に合わせて選定/改良する必要性を示唆するものである。現時点ではサンプルサイズが十分ではないため,検討を続ける必要がある。

 本研究は日本学術振興会特別研究員奨励費(課題番号:17J10709)および福原心理教育研究振興基金の助成を受けて実施された。なお,本研究の一部は,2018年度ACT Japan年次ミーティングにおいて発表された。

【主要引用文献】
Hayes, S. C., Wilson, K. G., Gifford, E. V., Follette, V. M., & Strosahl, K. (1996). Experiential avoidance and behavioral disorders: A functional dimensional approach to diagnosis and treatment. Journal of consulting and clinical psychology, 64, 1152-1168.
武藤崇(2013)臨床行動分析とACT:「二人称」の科学とその実際 臨床心理学, 13, 202-205.
武藤崇(2014)たとえる:有効なメタファーの作り方 精神療法, 40, 32-37.
武藤崇(2017)対人援助学の方法論としての「二人称」の科学 対人援助学研究, 5, 1-12.

キーワード
体験的技法/文化差/アクセプタンス&コミットメント・セラピー


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