発表

2B-029

精神疾患へのスティグマに対する対話的グループワークの実践

[責任発表者] 川本 静香:1
[連名発表者・登壇者] 中妻 拓也:2
1:山梨大学, 2:立命館大学

目 的
 精神疾患に対する認知度は高まりつつある一方で,スティグマの問題は未だ根強く残っている。スティグマとは,①人びとをある違いによって区別し,その違いによってラベル付けを行うこと,②ラベルとステレオタイプを結びつけること,③ラベル付けによって人びとを「私たち」と「彼ら」に切り離すこと,④ラベル付けされた個人は,社会的な立場の喪失や差別を経験すること(Link & Phelan,2001; 川本ら, 2019)の4つの要素から成り立つとされる。こうした要素により成立する精神疾患に対するスティグマは,当事者でない者に対して固定化した価値観の構築を促進させ,よりスティグマを強固なものにしてしまう恐れがある。
 本研究では,こうした精神疾患に対するスティグマを低減させることを目的として,メジロ―(2000)が確立した個人のパースペクティブ変容の理論である「意識変容の学習理論」にもとづく対話的グループワークを実践した。メジロ―(2000)は,偏向したパースペクティブを変容させるためには,省察的対話が効果的であるとし,その条件として,「より正確で完全な情報があること」「強制や歪曲的な自己欺瞞がないこと」「代替的な観点に開かれていること:他者の考え方や感じ方についての共感や気遣いがあること」「客観的に証拠を計り主張を評価する能力を持つこと」「思考の文脈を強く意識し,自分自身の前提も含め,前提を批判的に省察すること」「対話の様々な機会に参加するための平等の機会を持つこと」「理解や同意を追求し,対話を通して新たなパースペクティブ,証拠,主張がより良い判断を意味出すことが確認されるまでは,その結果生じた最良の判断を受容すること」を挙げた。本研究では,この7つの条件を踏まえた対話的グループワークを構成し,その実践について報告を行う。

方 法
 協力者 大学生4名(男性3名,女性1名,平均年齢20.5歳)
 手続き 研究の趣旨を説明し,同意が得られた者に対して対話的グループワークへの参加を依頼した。対話的グループワーク前に精神疾患に対するスティグマを測定するために,Linkスティグマ尺度(下津・坂本,2010)を実施し,その後,うつ病ビネット(A子さんの事例)を見せた後,A子さんとどう関わるかを課題に,対話を行ってもらった。なお,メジロー(2000)の省察的対話の7条件を満たすために,ファシリテーター1名を配置し,適宜,条件が満たされるようにグループワークを運営した。加えて,対話的グループワークのためのグランドルールとして,「①自分をごまかさないようにしましょう,②自分と違う考え方も認めるようにしましょう,③自分がなぜそのように考えたのかについて,理由を話しましょう,④なぜそのように考えるのかを強く意識し,自分自身の考え方の前提も含め,自分の中でじっくり検討しましょう,⑤対等な立場で話し合いに参加しましょう,⑥他の人の話は最後まで聞きましょう」と書かれた資料を提示し,グループワークの際にはこれを守るように伝えた。
対話的グループワークは,30分ほど実施した。対話の後に5分程度の振り返りの時間を設け,グループワークに参加した感想を自由に述べてもらう機会とした。すべてが終了した後に,再度,Linkスティグマ尺度(下津・坂本,2010)を実施した。
なお,本研究は,立命館大学「人を対象とする研究倫理審査委員会」による承認を得て実施した。

結果と考察
 対話的グループワークの前後で実施したLinkスティグマ尺度の合計得点を算出したところ,Table1の通りとなった。
 今回の実践では,4名の協力者のうち2名のスティグマ得点が低下した一方で,2名の得点が増加する結果となった。下津・坂本(2010)では,先行研究を概観した結果,合計得点として30点前後が平均的な目安となりうることを示し,個人得点が30点を高く超えるような者については,精神疾患に関わるセルフスティグマや社会的スティグマを強く意識している可能性があること指摘している。今回の実践で得点が減少した2名については,いずれも事後テストで30点を切っており,本実践に参加したことによる効果の可能性が考えられた。
一方で,得点が上昇した2名のうち1名(Dさん)が実践後に34点と高い数値であった。この点について明確な要因を特定することはできないが,対話的グループワークの実施前から30点を超える得点を有していたことから,社会的スティグマを強く意識する傾向にある者については,今回の手続きによる実践ではアプローチが不十分である可能性が考えられる。
 今後は本実践の内容をより精査し,効果的な対話的グループワークのプログラム構築を目指すとともに,効果が出にくい,あるいはスティグマが強化されてしまう者がいる可能性についても精査していくことが必要である。

キーワード
精神疾患/スティグマ/対話的グループワーク


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