発表

2B-028

教師の体験からみる自傷行為をする生徒たちへの対応と困難

[責任発表者] 坂口 由佳:1
1:東京大学

【問題と目的】
 リストカットなどの自傷行為は中学生・高校生のメンタルヘルスを考える上で重要な問題である。中学生・高校生の約1割に自傷行為を行う者が存在するといわれており,自傷行為への対応において学校が担う役割は大きいと思われるが,自傷行為をする生徒への学校での対応については知見が乏しい。その上,養護教諭に焦点があてられることが多く,自傷行為をする生徒への対応経験がある教師は8割以上と高い割合であるにもかかわらず(坂口,2015),生徒と日常的に最も関わっている教師を対象とした研究は少ない。そのため,行っている対応,連携や困難,実際に生じている問題の具体的な内容を十分に把握することは困難であり,教師の具体的な経験に即した対応や他職種との連携の指針が見出しにくい現状が指摘できる。
 そこで本研究では,教師が具体的に自傷行為をする生徒や周囲の教職員とどのように関わっているか,その際に生じる苦慮や困難を明らかにすることを目的とする。
【方法】
 調査協力者:自傷行為をする生徒への対応経験がある教師7名(経験年数3~33年)
 調査方法:半構造化インタビューを実施。その際には,予め対応と苦慮・困難に関する質問項目を用意した。
 分析方法:グラウンデッドセオリーアプローチを援用し,カテゴリーと上位のカテゴリーグループにまとめた。
 なお本研究の実施に際して,調査協力者のインフォームド・コンセントを得ている。
【結果と考察】
 10個のカテゴリーグループが見出され,それらは生徒本人,学校システム,そこに内包される教師自身の立場,そして保護者の4つの領域に整理できた。図1には,領域別のカテゴリーグループとそれらの関連を流れとともに示した。なお,カテゴリーグループは,四角枠の項目が事象・対応に関するグループ,角丸の項目が意識に関するグループ,吹き出しの項目が生じる苦慮・困難を表すこととした。図1からは,教師が生徒の自傷行為に気づくことを起点に,日常よりも気にかけた対応が始まり,同時に教職員間での連携・協力,保護者への対応にもつながる流れがあることが示された。
 生徒本人への対応として,一定の距離感を保つ関わりがあった。つまり,日頃から生徒に声をかけたり話を聴くなどして関わりつつ,甘やかし・特別扱いをせずに厳しく接したり,必要以上に深く関わらないよう距離感に気を遣ったりしていた。その中で,一人の生徒だけに対応していられない,どうしようという漠然とした不安を抱く,若さゆえの難しさ・悩みがある,担任教師が一人で抱えてしまうといった困難が見出された。また,そうした困難は,自傷行為への抵抗感,対応しづらい,対応に正解がないといった,自傷行為の扱いづらさへの意識が影響を与えていたことが分わかった。
 教師自身の立場として,生徒の担任教師かそれ以外の同僚教師かという違いが意識されていた。前者は生徒の学校生活の責任を負うために厳しく接する場面も多くなるが,生徒にとって非評価者と認識される後者は,より近い距離感で接することができていた。このような同僚教師の存在や意義を担任教師も理解し,教師間で共有されていることが分かった。
 学校システムとしては,生徒とのつながりを保つことが意識されていた。教職員間での密な連携,円滑な情報交換・共有や,複数人で生徒との関係性を保つことが目指されていた。一方,連携に伴う苦慮・困難が見出され,自傷行為特有の扱いづらさに加え,自分が担任教師のときには,対応に求められる役割に対する気負いが,同僚教師のときには立場ゆえの関わりにくさがあることがわかった。
 また,保護者への連絡・連携については,担任教師が主体となって行われており,保護者の協力や理解を求めるように働きかける一方で,保護者とうまく関われないという困難も抱えていた。
 見出された苦慮・困難の軽減を図るためには,まず,自傷への抵抗感や対応のしにくさを減ずるという点では,自傷行為の理解を深めることが重要だと考えられた。また,教職員間の連携をよりよくしていくという点では,教師たちが互いの立場や役割を理解すること,チームで生徒への対応にあたるだけではなく,対応の仕方や方向性についての認識の共有など情報共有や連携に努めることが重要だと考えられた。
 後者を図っていくためには,情報共有・交換の場や時間を設けるというハード面の整備だけではなく,援助者同士が率直に気持ちを吐露し共有し,支え合えるようなソフト面の整備も大事であると考えられた。それには,そのような場においてはスクールカウンセラーが中心となり,教職員をサポートすることが望ましいのではないかと考えられた。
【引用文献】
坂口由佳 (2015). 自傷行為に対する教職員の対応の実態と背景の把握—中学校・高等学校における質問紙調査から— 学校メンタルヘルス, 18, 30-39.

キーワード
自傷行為/スクールカウンセラー/中高生


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