発表

2B-025

強みの認識や活用が大学生のメンタルヘルスや自殺親和性に及ぼす影響

[責任発表者] 伏島 あゆみ:1
[連名発表者・登壇者] 津田 彰:2, 田中 芳幸:3
1:金沢工業大学, 2:久留米大学, 3:京都橘大学

目的
 平成22年以降,自殺者総数は減少しており,平成29年度の自殺死亡率は16.8%と過去最小値となった。一方,若年層の自殺死亡率は依然として横ばい傾向にある(厚生労働省,2018)。そのため,若年者の特徴に応じて自殺の要因を明らかにしたり,支援の方向性を探ったりすることは急務といえる。
 精神疾患などの健康問題は自殺の原因として多く報告されており,メンタルヘルスの不調を相談する若年者も多い(厚生労働省,2018)。よって,メンタルへルスの改善は,若年者の自殺対策にとって欠かせない視点といえる。このようなメンタルヘルスの改善に関して,近年,自身の強みを活用することが効果的であると報告される(Govindji & Linley,2007;Proctor et al.,2009)。強み研究の多くは,強み活用の有用性を示しており,強みを自覚するのみでは不十分であるとの知見も散見される。一方で,大学生において強みの自覚も抑うつや不安を下げる可能性が示唆される(石村・駒沢,2015)。年長者に比べると若年者は自己受容感が低い(沢崎,1995)ため,若年者の場合は自分の強みを受容することが,メンタルヘルスに効果をもたらすことが推測される。
 これより本研究では,大学生における強みの認識や活用がメンタルへルスの改善を通して自殺のリスクにどのように影響するのかを明らかにする。
方法
方調査時期と対象者 北陸地方の大学に在籍する大学生305名(男性255名,女性47名,不明3名。平均年齢19.7±1.1歳)。2019年1月に調査を実施した。
方調査内容 ①強み 日本語版強み認識尺度(高橋・森本,2015a),8項目。日本語版強み活用感尺度(高橋・森本,2015b),14項目。②メンタルヘルス(抑うつ,ウェルビーイング) K6(Kessler, et al.,2002),6項目。PERMA-Profiler日本語版(塩谷他,2015),16項目。③自殺リスク 自殺親和状態尺度(大塚他,2001)のうち,自殺への親和性7項目,自殺への抵抗力6項目。
心理学的統計解析 「強みの認識や活用がメンタルへルスを良好にし,良好なメンタルへルスが自殺親和状態(親和性の高さ,抵抗力の低さ)に影響する」という仮説モデルを共分散構造分析によって解析した。
結果と考察
各変数間の相関 変数間の相関係数は全て0.1%水準で有意であった。強みの認識や活用は,抑うつ(r=-.16~-.29)よりもウェルビーイング(r=.56~.69)と強く関連していた。メンタルへルス指標は自殺親和状態と関連しており,特に抑うつは自殺への親和性と関連した(r=.51)。
共分散構造分析 仮説モデルにおける適合度指標は,すべて良好な値であった(図)。メンタルヘルスが自殺親和状態へと与える影響をみると,抑うつは自殺への親和性と自殺への抵抗力に影響した(順にβ=.50,-.25,p<.05)。一方,ウェルビーイングは自殺への抵抗力にのみ影響した(β=.15,p <.05)。従来指摘されている通り,抑うつなどのメンタルへルスのネガティブ側面を減らすことは自殺予防へと大きく寄与するといえる。加えて,ポジティブな側面を高めることも,一定の自殺予防効果を有するといえよう。
強みの認識は,抑うつとウェルビーイングいずれにも影響した(順にβ=-.44,.28,p<.05)。強みの活用はウェルビーイングへの影響のみであった(β=.37,p<.05)。
 これより,「強みの認識」は特にメンタルへルスのポジティブおよびネガティブ側面をいずれも良好にすることで,自殺予防に大きく寄与する可能性が示唆された。認知行動療法では,クライアントを援助する段階において,まずはクライエント自身の強みを同定することが推奨される(Padesky & Mooney, 2012)。若年者にとって,自分自身の良さに気づき,その良さを「強み」として受容することは,落ち込みを和らげる効果を有すると考えられる。
強みの活用の場合は,ウェルビーイングのみへの影響が有意であった。強みの活用感と抑うつとは弱程度の相関関係(Govindji & Linley,2007)であり,強みの活用はネガティブ感情を低めないとの報告(Wood et al.,2011)からも,強みの活用は抑うつなどのネガティブな感情を低める経路とは独立して,その個人にとっての大きな喜びや満足感をもたらすと考えられる。
 強みの認識や強みの活用から自殺への親和性および自殺への抵抗力に向かう直接的なパスはいずれも有意でなかった(β=-.08~.08, n.s.)。これより,強みを自覚したり,活用したりすることは,メンタルへルスの向上を通じることで,間接的に自殺の予防につながる可能性が示唆された。ただ,本研究では大学生を対象とした横断的調査によって変数間の関連を検討しているため,因果関係には言及できない点や若年者すべてに本知見を一般化できない点が課題といえる。

キーワード
強みの認識/強みの活用/自殺親和状態


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