発表

2B-024

左右識別困難改善のためのプログラム開発の試み(3)

[責任発表者] 桝本 紗代:1
[連名発表者・登壇者] 日上 耕司:1
1:大阪人間科学大学

目 的
 左右識別能力は,発達過程において比較的後期に生じるものといわれている。その能力の個人差は大きく,健常な成人においても,とっさの場合に左右識別に困難を示す者が存在する(谷岡・山下, 2007)。桝本・日上(2018)は,左右識別に困難のある成人女性を対象として,応用行動分析における刺激対呈示・弁別・反応分化手続きを用いた訓練プログラムによって,左右識別困難の改善に一定の効果があることを示した。本研究では,新たに訓練課題の構成を変化させ,その効果を検討した。
方 法
 参加者 参加者は左右識別困難を自覚している1名の左利きの成人女性(研究開始時28歳)であった。参加者は日常生活において車の運転やスポーツ,視力検査など左右の識別が必要な場面において困難を感じており,改善したいとの希望を持っていた。
 課題 左右識別能力を測定するテスト課題として,【1】言語刺激-動作表出課題,【2】対面動作刺激-言語報告課題,【3】背面動作刺激-言語報告課題を作成し,毎回ランダム順に実施した。各課題は12試行より構成され,各試行では,右手を上げる,右手で左耳を触る,などの12の問題がランダム順に呈示された。課題間間隔は5分,試行間間隔は10秒とし,正誤のフィードバックは行わなかった。
 【1】言語刺激-動作表出課題では,出題者が示す(1)~(12)のいずれかの言語刺激に対し,対象者はそれを動作で表現し,動作が終わると「はい」と報告した。【2】対面動作刺激-言語報告課題および【3】背面動作刺激-言語報告課題では,出題者が示すいずれかの動作に対し,対象者はそれを言語報告した。【2】と【3】の課題の違いは,動作呈示が対象者に対面して行われるか,背面を見せて行われるかのみであった。出題完了から「はい」もしくは言語報告完了までの反応時間が計測・記録された。
 金森・山下 (2011)を参考に,プレゼンテーションソフトを用いた訓練課題を作成した。背面課題として,背中を向けた人型を提示した後,1秒後に人型の右側に青で「みぎ」,左側に赤で「ひだり」の文字を同時に1秒間提示した。その間に対象者は右手の人差指で「みぎ」を指差しながら「みぎ」と発声,次に左手の人差指で「ひだり」を指さしながら「ひだり」と発声した。これを1試行として,試行間間隔を1秒として30回繰り返した。背面課題の他に正面課題,混合課題も作成した。各課題において,人型が同じ位置に提示される位置固定課題,左右にランダム提示される位置変動課題,身体の中心を軸として回転して提示される体軸回転課題を設けた。
 手続き テスト課題は201X.6.18~201X+1.5.2に35回行われた。訓練課題は,201X.8.7~201X+1.5.1に1日1回実施された。したがって,6.18~7.12がベースライン期間であり,以後,訓練課題:(1)背面位置固定を実施した8.7~31を介入1,訓練課題:(2)背面位置変動を実施した9.17までを介入2,訓練課題:(3)背面体軸回転を実施した9.26までを介入3,訓練課題:(4)対面位置固定を実施した10.29までを介入4,訓練課題:(5)対面位置変動を実施した11.22までを介入5,訓練課題:(6)対面体軸回転を実施した12.15までを介入6,訓練課題:(7)混合課題を実施した5.1までを介入7とした。
結 果
 各訓練課題の各試行の反応時間を分析すると,いずれの課題においても問題に関わらず,第1試行のみが突出して反応時間が長かった。これは,第2試行以降では直前の試行の反応を手がかりにできるためと考えられた。
 そこで,訓練課題導入後も含め,各テスト課題の第1試行のみの反応時間の推移を図1に示した。介入1(訓練課題導入)以後はベースラインに比較して反応時間がほぼ半分に短縮され,介入2ではさらに減少している。その後,介入4の導入により反応時間がやや増加したが,介入5,介入6により,わずかに減少した。また,介入7の混合課題の導入により,一時的に増加したのち,大きく減少している。参加者の内省報告によると,介入6までは識別に自信を持てなかったが,介入7の終盤にあたる3.27に突然,識別に自信が持てるようになったとのことであった。
考 察
 各課題とも,訓練課題導入によってテスト課題の反応時間が大幅に短縮されたことから,本研究における訓練課題が左右識別困難の改善に一定の効果があることが示唆された。今後,本研究参加者以外の者にも有効であるかどうか,また,どのような訓練方法が効果的であるのか等を検討する必要がある。本研究では背面,対面課題の実施後,混合課題に移行したが,対象者の識別方略と合わせながら,訓練課題の種類や組み合わせ等を検討することにより,さらに反応時間の減少に要する期間が短縮される可能性も考えられる。
引用文献:金森・山下 (2011) 行動科学, 50 (1), 11-18./桝本・日上(2018)大阪人間科学大学教職課程研究紀要, 2, 225-233./谷岡・山下 (2007) 愛媛大学教育学部紀要, 54 (1), 57-61.

キーワード
左右識別困難/刺激対呈示手続き/弁別訓練


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