発表

2A-037

感情制御方略の使用における年齢差の予備的検討(2)
対人的方略に着目して

[責任発表者] 浦野 由平:1
[連名発表者・登壇者] 菅沼 慎一郎:2
1:東京大学大学院理学系研究科・理学部学生支援室, 2:防衛大学校

目 的
 乳幼児期には養育者の助けなしに感情へ適切に対応できないが,青年期・成人期前期以降では認知機能の発達に伴いより洗練された種々の認知的感情制御が可能となり,その後も加齢とともに感情制御のあり方は変化していくことが予想される(Gross, 2015)。先行研究では加齢とともにポジティブ感情が増加し,ネガティブ感情が減少することが示唆されているが(Urry & Gross, 2010),このように身体・認知機能が低下するにも関わらず高齢層においてwell-beingが高く維持される現象はparadox of well-being (Mroczek & Kolarz, 1998)と呼ばれてきた。感情制御の選択・最適化・補償理論(SOC-ER; Urry & Gross, 2010)に基づくと,感情制御に用いられる資源やその活用方法は年代により異なる可能性がある。身体・認知機能が低下するにも関わらず,感情制御経験の蓄積(Gross, 2015)や感情制御に対するモチベーションの高まり(Mather & Carstensen, 2005)により,加齢とともに効果的な感情制御が行われるようになることを踏まえると,高齢層では低下した身体・認知機能を補償するような外的資源の活用が他年代よりも多く行われているのかもしれない。そこで本研究では「対人交流の活用」に焦点を当て,対人的方略の使用傾向における年齢差を検討する。

方 法
 浦野・菅沼(印刷中)と同様の調査データを使用した。対象者はインターネット調査会社の保有する20代から60代のモニター1000名(男女同数;各年代200名ずつ)であり,いずれも過去に重大な諦めを体験している者であった(平均年齢:44.56±13.75歳)。冒頭に調査の趣旨や倫理的配慮に関する情報を掲載し,同意する場合は以降の調査項目に回答してもらうよう求めた。実施された調査項目のうち,(1) 年齢・性別, (2)浦野(2017)の対人的方略に関する尺度項目を分析に使用した。分析においてはR(ver.3.4.1)を使用した。

結 果
 対人的感情制御方略の使用傾向を従属変数とした階層的重回帰分析を実施した。まず,Step 1で性別,中心化された年齢・年齢の2乗項を独立変数として投入し,Step2にて中心化された年齢・年齢の2乗項と性別の交互作用項を投入した。Table1に分析結果を示す。不満をこぼす,相手を不快にする,安心を確認するにおいて年齢の線形的な効果が有意であった。この結果は,これら3方略の使用傾向については年齢が上がるほど得点が下がることを示している。次に,一緒に問題解決,一緒に考え込む,安心を確認する,一緒に楽しいことをするでは曲線的な効果が有意であった。これら4方略について各年齢の平均値と近似曲線を図示したところ,これらの対人的方略のいずれについても,若年層と高齢層が全体として得点が高く,中年期では得点が低いことが示唆された。

考 察
 本研究の結果から,3つの対人的感情制御方略に関しては年齢が高くなるにつれて使用頻度が低くなるという直線的効果が示唆されたが,4方略では曲線的効果が有意となった。直線的効果が有意となった方略はいずれも先行研究の中で非適応的であることが示唆されているが(e.g., Cougle, Fitch, Fincham, Riccardi, Keough, & Timpano, 2012; 関屋・小玉, 2012; 浦野, 2017),加齢とともに効果的な感情制御が行われるようになる(Mather & Carstensen, 2005)ことを踏まえると,妥当な結果と言える。次に,7方略のうち4方略が曲線的効果を示したが,若年層では感情制御経験の不足が,高齢層では感情制御に必要な内的資源・機能の不足が1人での感情制御を困難にする可能性が考えられ,そのため他者との交流を通して感情を制御する機会が多くなるのかもしれない。以上から,若年層と高齢層において対人的な感情制御が比較的多く行われている可能性が考えられるが,本研究は重要な諦めた体験を有した人々を対象としており,このような経験の有無が結果に影響している可能性がある。加えて,横断データを使用したため,方略使用の発達的変化は捉えられていない。今後は異なるサンプルを対象として,感情制御プロセスの発達的変化についてより精緻な検討を進めていくことが求められる。

キーワード
感情制御方略/年齢差/横断データ


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